10 崩れゆく組織 ページ10
ふと、出口に向かって歩いていた石狩たちの足が止まる。
「待ってください、待って!」
そんな声がして視線を向けると──なんと松風が通せんぼをするように立ち塞がっていた。いつからいたのだろう、気が付かなかった。
隣にはクラスメイトだろうか、見慣れない男子と女子がいる。
「お願いします、やめないでください!」
「悪ぃな、もう決めたんだ」
水森がそう言ったが、松風は引き下がらない。
「俺、雷門に入って先輩たちとサッカーするの、楽しみにしてたんです……雷門サッカー部は俺の憧れなんです!」
「今日の見てわかっただろ? 今の雷門サッカー部はこの程度の実力なんだ」
「怖くなったんだよ、サッカーするのが」
「怖い?」
松風は思いがけないことを聞いたとでも言うように、目をぱちくりとさせる。
「サッカーって楽しいと思うんです。俺たちがサッカーを楽しまなかったら、サッカーが可哀想ですよ」
──サッカーが、可哀想。
不意に胸を突かれた心地がして顔を上げる。
しかしその言葉の意味を咀嚼する前に、場から失笑が巻き起こった。
嗚呼、松風は本気でサッカーが好きなんだ。内申とか関係なく、ただサッカーがしたい一心で雷門に来たんだ。
ひたすら純真なだけに、今の状況を見ている松風がいたたまれなかった。
「でも俺、本気でそう思ってます! 俺たちが楽しいって思えば、サッカーも嬉しいはずです!」
「行かせてやれ」
そう静かに言ったのは神童。
「ありがとよ、神童。そろそろコイツの言うことにキレそうになってたとこだ」
水森たちは苛立ちを隠そうともせず、松風を乱暴に退かせて立ち去っていった。
「キャプテン……すみません!」
ふと、私のすぐ隣でもそんな声がする。
見ると私以外のマネージャーたちが全員、駆け足で去っていくところだった。
反射的に足が一歩出るが、それ以上は動かない。
追いかけて──追いかけてどうするのだ? 止める権利なんて私にはない。
部内の視線がちらほらと私に向けられている。お前は行かないのか──そんな声が聞こえてきそうだ。
私の足はそれ以上動かなかった。フィフスセクターは怖い。けど何よりも、まだサッカーにしがみついていたかったのだ。
今逃げたら自分の中の大事な部分が、ごっそり抜け落ちてしまう気がして。
結局。
一乃と青山も立ち去り、合わせて部の半分以上の人数が抜けていった。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時