9 ひび割れの音 ページ9
と、その時。神童がシーツを引っ掴み、かなりの勢いで飛び起きた。
突然の行動に、二人がかりで慌てて静止する。
「急に動かない方が……！」
「Aの言う通りだ。まだ休んでろよ」
「キャプテンだぞ俺は！」
そう叫んだ顔は、今まで見せたことのないような険しいもので──思わず身を引いてしまう。
神童は元々責任感が強い。強すぎるくらいに。
それはキャプテンという役割を任されたからだろうか、或いは。
「みんなを集めてくれ。すぐにだ！」
＊
再び、ミーティングルーム。
セカンドチーム、ファーストチーム、マネージャー。部員全員が集められたが、誰の顔にも暗澹とした表情が広がっていた。
議題をわざわざ発表するまでもない。全員が全員、打ちひしがれている。
「フィフスセクターに目をつけられて、サッカーなんかやってらんねえよ！ 剣城とかいうあの一年もおっかねえし……今まで我慢してきたけど、もう限界なんだ！」
そんな中、石狩が神童に叫ぶ。今まで積もった行き場のない怒りが噴出したのだ。
フィフスセクターの恐ろしさを、身をもって体験した。
逆らえばどうなるかわからない。自分たちにはどうしようもない。そう考えると、誰かを責める気にはなれなかった。
「行こうぜ」
セカンドチームの選手たちが次々と席を立つ。
浜野や天城さんが静止に入ったが、退部の決意は固いようだった。
さらにはファーストチームの水森と小坂まで部を去る意志を示す。
「せっかくセカンドからファーストに上がったのに辞めるんだド？！」
「怖いんですよ、フィフスセクターが」
「サッカー部にいりゃ、内申書も良かったんだけどな。俺別にサッカーこだわってねーし」
水森のその一言に激昂したのは車田さんだった。
「なんだその言い方は！」
「やめろ、車田！」
三国さんがすんでのところで止める。
二人に殴りかからんとしていた車田さんは「我慢しているのは皆同じだろうが」と悔しげに呻いた。
「水森、小坂。今までありがとうな」
今まで黙っていた神童が、穏やかにそう告げる。
しかし、膝の上で組まれた手は微かに震えていた。
今まで築きあげてきたものが、音を立てて崩れていく。ひょっとしたらこうなるのは時間の問題だったのかもしれない。
──本当のサッカーって、一体どんなものだったんだっけ。
私は直立不動の無表情で、一連のやり取りを見つめていた。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
