46 勝利と苦悶 ページ46
神童の叫びに呼応するように、はっきりと化身の姿が具現化した。
「『ハーモニクス』！」
強力な新技は、凄まじい勢いをもってして──ゴールを破る。
怒涛の展開に、沸き起こる歓声。
そして……試合終了のホイッスル。
得点は2-1。天馬、信助、神童、三国さん。たった四人で、本当に勝利をもぎ取ったのだ。
手を取り喜び合う天馬と信助。神童の肩を組む三国さん。
対照的にほかの八人は、この勝負の結果にただ俯くばかりだった。
「神童」
ベンチに戻ってきた神童にタオルを手渡しながら、そう呼びかける。
「相変わらず凄かった……神のタクトもフォルテシモも、あと化身も」
「ありがとう……まだ化身は完全にものにできたわけじゃない。でもこの力があれば、これから先の試合もきっと勝ち進められる」
その表情には自信の色が見えていた。
本気でサッカーを楽しむ目。晴れやかな顔に、自然とこちらも笑みがこぼれる。
──もし神童と、サッカーができたら。
ふと、そんな叶いっこない思いが自分の中に起こっているのを感じ、私は羨望の眼差しをフィールドに向けるのだった。
＊
ミーティングルームの雰囲気は、勝利の翌日とは思えないほど険悪だった。
フィフスに逆らう人と、従う人。二つの派閥の間には、決定的な溝がある。
どちらが悪いと一概に割り切れない問題だから、そして考え方が違っても、今まで一緒にやってきた仲間だから──結論が導き出せない。
「──指示に逆らって、フィフスセクターが黙っていると思うか？ お前たちは廃部になってもいいのか？」
「廃部？！」
南沢さんの言葉に、今入ってきたばかりの天馬が身を乗り出す。
「逆らって廃部になった学校はいくつもあるんだ」
霧野の言った言葉は脅しでもなんでもなく、事実だった。
フィフスが設立された当初、その理念に反発した学校も少なくなかった。
しかしどこも全て、為す術なくねじ伏せられたのだ。まるで見せしめのように。
「俺だって本気でやりてえよ……でも、サッカーできなくなるのは御免だ」
「全部の試合に指示が出るわけじゃないド……真剣にやるのはその時でいいド」
先輩たちからも声が上がる。
「神童……お前と気持ちは同じだ。だが南沢さんたちの言うことも、よくわかる」
神童を見つめる霧野の瞳は不安げに揺らいでいた。
日を追うごとに、試合を重ねるごとに。部内の雰囲気は沈鬱になっていく。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
