28 八百長試合 ページ28
言ってから、しまったと後悔する。
今のは余計な一言だった。私の個人的なことなんてどうでもいいのに。
「明日の試合なんだけど」
誤魔化そうと選んだ話題は、しかし相応しくなかった。
0-3で雷門の負け。紙切れに記された勝敗指示。
言葉が喉の奥でぐっと詰まる。逡巡して、ぽつりと一言。
「──頑張ってね」
「はい、頑張ります!」
意気込んだ松風に、曖昧な笑みを返す。
言えなかった。いや、言わなくてよかったのかもしれない。
試合に出れば嫌でもわかるだろうから。
*
練習試合、当日。
栄都学園の本拠地であるフィールドには、練習試合とは思えないほどの観客が押し寄せていた。
空野さんたちと一緒に必要な物の準備をしながら、松風たちの様子を伺う。
大勢の観客に見られながら試合をするのは初めてなのか、ガチガチに緊張しているようだった。水鳥に叩かれ、無理やり背筋を伸ばされている。
──せめて昨日の河川敷での練習が活きればいいんだけど。
両チームがポジションにつく。
勝ちが約束されている試合だからだろう、栄都の選手の顔にはどこか余裕そうな表情が浮かんでいた。
雷門側からのキックオフで試合開始。
倉間、神童、浜野、南沢さん──順調にパスが繋がれていく。
しかし。
「『シーフ・アイ』」
相手選手にボールを奪われた。
いや……わざと奪わせた、のかもしれない。
たとえ負け試合だとしても、観客を楽しませるために雷門は全力を装ってプレーしなければならない。
フィフスの勝敗指示はサッカー部とその関係者にのみ通達されるのだ。
フィールドにいるみんなの表情は暗いものだった。
「天馬! そんなとこじゃボール取れないだろ! もっと前出ろ!」
水鳥の応援も、今は聞いていると辛くなる。
それから一進一退の攻防が続き、傍から見れば実力は互角のように見えたが。
「『パーフェクトコース』」
カットされたボールが相手に渡り、そのままシュートへ。
「『バーニングキャッチ』!」
三国さんが必殺技で対抗した──が。
ボールはゴールネットを揺らした。
途中で力を抜いたのだ、三国さんは。勝敗指示に従わなければならないから。
その後も雷門の劣勢で試合が進んでいく。
「『パーフェクトコース』」
「『バーニングキャッチ』!」
またしてもゴール。栄都に追加点が入る。
点差は二点──ここで前半終了のホイッスルが鳴った。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時