26 決められた結果 ページ26
翌日の朝練前のミーティングは、沈鬱な雰囲気に包まれていた。
栄都学園との練習試合の通達が来たのだ──0-3で雷門の負けという、勝敗指示と一緒に。
「なんでよりによって栄都なんかに! あんなとこ……俺らが本気出しゃ一発じゃないか!」
車田さんの言い分もわかる。
栄都は元々進学校として有名だった。サッカーの強豪校ではなかったのだ。
フィフスが現れるまでは。
──と、そこに松風と西園、空野さんがやってくる。
「おはよう……ございます。どうしたんですか?」
「栄都学園との練習試合が決まった」
「栄都学園か……先輩、頑張ってください! 一生懸命応援しますから」
「『応援します』って……貴方たちも出るのよ? そうしないと人数が足りないでしょう」
音無先生に言われ、松風の表情が引き締まった。
「よろしくお願いします! 俺、頑張りますから! 絶対勝ちましょうね!」
その言葉に応じる人はいなかった。
されど練習試合。しかしフィフスが介入すれば、紙切れ一枚で自由が制限される。
そのことを松風たちはまだ、知らないのだ。
*
試合前日。
いつもの帰り道にさしかかりかけ──ふと思い至り、九十度方向転換して歩き出す。
辿り着いたのは河川敷。
ここはジュニアチームの練習場所にもなっている。監督やコーチと顔を合わせないよう、わざわざ遠回りして帰っていたのだが。
──懐かしい。
中央に広がるフィールド、その側を突っ切る並木道。穏やかな流れの川に、鉄道橋。
一年と経たずにやめてしまったが、ボールを追いかけている時間は本当に楽しかった。
「2、3、1、3、2……」
ふと、そんな声が風に乗って聞こえてくる。
それが聞き覚えのあるものだったから振り向いてみると、案の定というか、松風がドリブルの練習をしていた。
近づいてみても、ボールに夢中で気がついていない。どうやら地面に敷かれたタイルを使ってステップしているらしい。
「3、3、1……3、3、3──うわっ!」
足がもつれたのか、松風は派手にすっ転ぶ。飛ばされたボールが足元に転がってきた。
「いてて……あっ、A先輩!」
「熱心だね」
ボールを足先で弄びながら、敷き詰められた正方形のタイルを見やる。
「1マスを1って数えてドリブルしてるの?」
「はい。でも、3、3、3っていうステップがどうしてもできなくて……」
3、3、3。口の中で呟いて、私は手に持っていたカバンを足元に置いた。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時