12 冷めた話 ページ12
咲き盛りの桜を眺めながら、舗装された真新しい道を歩く。
本当は午後練もある予定だったのだが、さすがに解散となった。
──たかだか3時間か4時間くらいの出来事だったはずなのに、えらく長く感じたな。
フィフスセクター。化身。やめていったメンバーに新入部員。マネージャーも自分を除いて一人残らずやめていくとは思わなかった。
多分今朝の一連のことはすぐ噂になって広まる。そうなれば松風たちはともかく、他の新入部員の加入はほとんど望めないだろう。
そんなことを考えて歩いていたら、前方に見知った顔を見つけた。やや猫背になって、ゆっくり歩いている。
どうやら携帯を操作しているようだった。危なげな姿に、思わず近づいて声をかける。
「南沢さん」
振り返ったその顔は、相変わらず整っていてクールだった。
「A」
「携帯見ながら歩くの、危ないですよ」
「はいはい」
南沢さんは渋々といった感じで、携帯の画面を閉じてポケットにしまった。
さすがにそのままはいさよならと立ち去るのも失礼な気がして、なんとなく半歩後ろを歩く。
でも正直、少し気まずかった。私も南沢さんも口数の多い方じゃないから、普段でもあんまり会話しない。ただでさえさっき部内はあんな険悪な空気だったのに。
「お前は俺と同じなんだろ?」
だから急にそう話題を振られて、咄嗟には反応ができなかった。
「同じとは」
「サッカー部に残る理由」
「……内申、ですか?」
「ああ。ある程度できれば、卒業後の進路にも困らない」
さっきも部室で倉間と同じようなことを言っていた気がする。
サッカー部に入っていれば内申書に色がつく。それ目当てで入部したメンバーも少なくはないのだ。水森とか、小坂とか。
「それはそうでしょうけど……まあ、普通にサッカー好きなんで」
「へー。クールな顔して純真ちゃんなんだな」
「どうも……あと私から話しかけといてなんですけど、こうして一緒に歩くのまずくないですか」
「なんで?」
「彼女、いるんでしょう」
いつかの部活の日、車田さんがそんなことを言っていた気がする。同じ委員会の女子だとかなんとか。
「彼女? 先月とっくに別れたさ」
──多分自分から振ったんだろうな。そう思いはしたもののさすがに口には出さなかった。
まあ、このルックスだとすぐ他の誰かに告白されそうな気もするけれど。
大通りに出る手前で、南沢さんとは別れた。
105人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時