◇19 ページ19
.
先に進めば重岡くんが一つの絵に目を留めた
私が見てる絵から少し離れた左手の方にある壁に掛かる絵
隣に立つ彼が顔だけをそちらに向けていたようで、
「重岡くん」と声を掛けようと彼を見た時、その様子に気がついた
「気になる？あの絵」
「…あれもやっぱり有名な絵なんや」
「うん、クロード・モネの“睡蓮”
モネはあの絵の他にもたくさん“睡蓮”を描いてるの、
素敵な絵だよね、私も大好き」
その絵に近づけばいいのに、重岡くんは少し遠くから顔だけ向けて見つめていた
「行かないの？」と聞けばゆっくりと振り返り、
私の目をまっすぐに見つめて頷いた
「どうして？もっと近くに行ってみようよ」
「…吸い込まれそうやねん、あの絵、宮下さんに似てる」
「私に？」
「…写真、あんな風に撮るやろ、
宮下さんの目からはこういう世界が広がってんねやって、前に現像した池の写真を見た時に思ったんや
その感覚と似てる、…あの絵と似てる」
そう言ってまた絵に目を向けた
返す言葉が見つからない、私自身あんなに美しい写真を撮った事はまだないと思っていた
けど重岡くんにはそう見えていたようで、嬉しくて言葉に表す事はできない
そんな風に、私はただ「ありがとう」と震えた声で彼に伝えた
「宮下さんの写真、俺好きやねん
どんな日常でもキラキラして見える、そんな素敵な事できるん宮下さんだけや」
「ただシャッターを切るだけだよ」
「俺が切ったってあんな綺麗に撮られへんわ、
凄いな、って…もし良かったら新しく撮ったの見せてくれへん？」
「もちろんっ、猫とか撮ってるよ、
あっ、最近あっくんも撮ったなぁ、…あとは、」
「ははっ、あとでゆっくり教えてや、
とりあえず周ろ、ごめんな引き止めてしもうて」
ううんと首を横に振って、睡蓮 を横目に再び館内を歩き始めた
重岡くんは優しくて、興味がなければ退屈なはずの美術館でもニコニコしてくれて、
小さな声でたくさん質問をしてくれる
あの絵は何？アレとコレは同じ人が描いてるん？
教える度に目を輝かせて、凄いな、凄いな、って、
お腹の前で小さく拳を握って、彼はたくさん感動してくれた
それが私は嬉しくて、重岡くんと来て良かった、
誘ってくれたのが重岡くんで良かったって、
心の中で思いながら、キラキラさせた目で絵を見つめる重岡くんに笑みを零した
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1629人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なあちゃむ(プロフ) - コメントの返信ありがとうございました！桜さんの作品は自分の頭の中で映画のように綺麗に想像することができるので本当に素晴らしいです。桜さんの作品、すべて読ませていただきました。どれも素敵で、読み直した作品もあります。これからも更新楽しみに待ってます。 (2016年8月10日 8時) (
レス) id: 525c05de2b (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - なあちゃむさん» 「また明日」っての方でもありがとうございます、とても嬉しいです、読んでくださる方の脳内で映像化されるような情景描写、美しく綺麗な世界になるように心掛けております、なのでお言葉とても嬉しく自信になります！書いてて良かったです、本当にありがとうございます (2016年8月1日 10時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 怜奈 桃ジャス民さん» 順調に進んでおられて良かったです、わかりました、応援していますね(^^) (2016年8月1日 10時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
なあちゃむ(プロフ) - 読んでいてその風景を思い浮かべることができました。ストーリーも本当に素晴らしくて、占ツクを読んで泣いたのは春紫苑が初めてです。本当に素敵なお話でした。また読み返します。 (2016年7月26日 17時) (レス) id: 525c05de2b (このIDを非表示/違反報告)
なあちゃむ(プロフ) - コメント失礼致します。初めまして、友達がオススメしているのを聞いて、久しぶりに占ツクにログインして春紫苑を読みました。私が期待していたイメージを遥かに超えて本当に素敵な作品でした。情景描写の美しさ、メンバーのキャラクター、すべてがイメージとぴったりで (2016年7月26日 17時) (レス) id: 525c05de2b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桜
| 作成日時：2016年6月21日 1時
