第六話 ページ8
*
中庭にて。
譲ってもらった本を読み始めてから何分が経っただろう。
そんな事を思い始めてから最後のページを読み終え、パタンと本を閉じて小さく息を吐いた。
やっぱりいいなぁ…この本。
なんて思いながら、読み終えた本の余韻に浸っていたのだが、そこでハッと我に返った。
慌てて席を立ち、図書室へと向かう。
“早くこの本をあの人に渡さないと。”
そう思って歩き出したものの、彼が図書室に居るという自信は何処から出てきたのだろう。
けれど、その時は何となくだが、まだ彼が図書室にいるような気がした。
図書室の扉をガラリと開ければ、シーンと張り詰めた空気感が全身に伝わる。
何とも言えないこの感じが、なんだか好きだった。
だからだろうか、図書室にいるとどこか心が落ち着くのだ。
辺りをくるりと見渡せば、何故か机にうつ伏せて座っているあの人らしき人影がそこにあった。
え、寝てるの…？！
予想にもしていなかった状態に狼狽えていると、トントンと肩を叩かれ振り返る。
そこには図書委員らしき男の人が居て、もう閉館したいのであの人を連れて出て言ってほしい。との事。
すぐに起こしに行く勇気をまだ持ち合わせていなかったので、取り敢えず、後で閉めときます。と鍵を受け取ることにした。
はて、それから何分経っただろうか。
取り敢えず眠っている彼の近くまでは来たもののどうやって起こせば良いのやら。
チラリと彼の様子を伺うように視線を移す。
“綺麗な寝顔…。”
長い睫毛に、きめ細かな肌。
そして、何とも言えないミステリアスな雰囲気がまたその美しさを引き立たせている。
思わず魅入ってしまいそうになったのだが、意を決して、緊張からかプルプルと小刻みに震える手を伸ばしそっと彼の肩に触れた。
そして、自分から触れておきながらピクリと肩が跳ねる。
「あぁ…もう、無理……っ」
なんて情けなく弱音を零しつつも、頑張って彼の肩を揺らした。
それから、凛とした声で「起きて。もう下校の時間よ。」と声をかける。
声が震えていないのは流石だと言えるが、表情は恥ずかしそうに薄ら頬を赤らめているので、折角のクールな雰囲気が台無しだ。
異性に対して免疫がない彼女。
自分がこうなる事が分かっていたので極力関わらないようにしていたというのにこの状況である。
また弱音が口から零れそうになったその時、彼の瞼がうっすらと開いた。
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