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…いや、申し訳ないけど覚えてないなぁ。
とは、この静けさが支配するこの場所で口にすることはできなかった。
ただ、私が視線を彷徨わせているのを見て、マチが言う。
「いや、Aは多分覚えてないよ。人を覚えるのが苦手なんだって。」
「ぇ、……そうか。なら改めて名乗ろう、幻影旅団長のクロロ=ルシルフルだ。」
「ご丁寧にどうも。私はイルミの弟のA=ゾルディック。」
いま小さい声で『ぇ』って言ったな。
もしかして、個人的に会ったことでもあったのだろうか。
でもその場合、重要なことや忘れてはいけないと感じたら携帯にメモを残して置いたはずだ。
「マチが言ったように人を覚えるのがすごく不得手で、もし何度か会っていたとしてもひと月以上会わなければ覚えていない可能性の方が高い。申し訳ないけど、これは体質でね。」
「体質、か。」
意味ありげにそう言ってこちらを見る彼。
直感か、はたまた鋭いのか、それとも本当に私の何かを知っているのか。
「2回はイルミの後ろに着いてきていた。後の2回は俺に直接品を渡している。覚えているだろう、マチ。」
「うん。覚えてるからこそ、アタシはAに声を掛けたんだしね。」
「そうだったんだ、じゃあイル兄の仕事引き受けてよかったな。マチに声を掛けて貰えたから。」
「…マチを口説いているのか?」
彼は私の言葉を聞いて、私とマチを交互に見る。
彼女もこちらを見ており、パチリと視線がかち合った。
そのまま2人でくすくすと笑い出してしまう。
「いや、私にマチみたいな素敵な女性は勿体ないよ。」
「ふふ…だって、団長。」
「そうか…?」
不思議そうにこちらを見る彼は黒い目を丸くしていて、その表情は随分と幼く見えた。
そんな彼に一冊の本を差し出す。今回、これを彼に渡す事がイル兄からの仕事の内容だ。
「…まさか本当に手に入れてくるとはな。イルミに礼を言っておいてくれ。謝礼は後日振り込んでおく。」
「今後も兄をよろしく。」
「なんだ、キミはしてくれないのか。」
挨拶を軽く済ませてこの場を去ろうとしたが、会話が途切れることは無かった。
チラリとマチを見たが、笑みを浮かべながらこちらを見ている。
どうやら、マチも目の前の彼もそう簡単にここから返してくれることはなさそうだ。
それを見越してヒソカはこの場を去ったのかもしれない。
…ヒソカと親しさ全開で行った方が楽だったか。
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ゆーな(プロフ) - キルアの甘えたな所とヒソカが何だかんだ優しくて可愛い過ぎる!このお話面白くてハマりました! (2022年1月15日 15時) (レス) id: 83b0960623 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2021年10月2日 2時