検索窓
今日:22 hit、昨日:23 hit、合計:129,787 hit

四十七柱 ページ47




「では、刀身をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

「…うん。頼むよ」


表情の抜け落ちた燭台切 光忠様が私に向かって手を伸ばす先に握られたのは、一振りの太刀。

短刀や脇差に比べ、ずっしりと重い。

決して落とさぬように両手で慎重に受け取った。


膝で刃に触れぬように支えながらゆっくりと鞘から引き抜く。

そして、拭い紙を刀に当て、手の平から力を送り込んだ時だった。


「っ、」


体から何かが抜けて行く感覚、鈍く響く頭痛、目の前が霞む。

切っ先まで当て終え、とっさに鞘に刀を収めた。


「…霊力不足だね。三振りで限界か…霊力が少ないようだね」


自身を粗雑に扱われたらたまらないとでも思ったのだろうか。

彼は私の手から自身を手に取り、そう言った。

そうなのか、と心の中で思った時、手入れ部屋の扉がガラリと音を上げて開かれた。


「それはちと違うなあ、燭台切よ」

「三日月、さま…」


グラグラと不調を訴える視界に掠れながらも映り込んだのは、三日月様だった。

彼は、いうことを聞かない子供に向けるような、しょうがないなあとでも言いたそうな表情を浮かべていた。


「はっはっは、主よ。乱と青江を見たが、どうやら随分と無茶な事をしているようだな」


降ってきた言葉に疑問が湧き上がり、グルグルと思考を巡らした時、頰に冷たいものが当たる。

ぼやける視界の中で必死に確認すれば、それが三日月様の手である事に気づいた。

恐れ多いという感情と、純粋な恐怖がせめぎ合い、震えることで言葉を紡ぐ。


「…三日月様、人間などに…ふれれば、」

「穢れるとでも言うつもりか…人の力で顕現するこの俺も同様と?」


ん?と私に問いかけるように首を傾げるが、有無を言わさぬ圧を感じる。

言い訳がましく咄嗟に出た言葉は、どうやら彼の望んでいた返しだったようで。


「けして、そう言うわけでは…」

「なら、構わぬな?」


けろりと私を丸め込んだ三日月様。

ゆるりと笑った彼は私の隣に腰掛ける。

それから、私をひょいと持ち上げて自分の膝に乗せた。

その体制を私が理解するよりも早く、彼は私の顔を自身の胸に押しつけるようにして抱え込む。


「み、かづき、さま…っ!?」

「ほれ、大人しくしていろ。霊力切れは力が入りづらいと前の主に聞いたことがある」


たしかに、体に力は入りづらいし、視界は霞むし、頭痛も酷い。

だが、神様の膝の上でゆっくりするよりもその方が何倍もマシだ。

四十八柱→←四十六柱



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (63 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
137人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。