四十五柱 ページ45
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懐紙を口で食み、刀身に打粉を押しつけるように叩いて行く。
稀にふわりと粉が舞うのを見ながら、叩き残しの無いように慎重に。
それから、再び拭い紙で粉を拭き取る。
刀の表面に傷が残っているので、それが消えるまでまた打粉を叩き、拭い紙で拭き取る。
拭い紙を媒体として霊力で刀身を再生させ、打粉で細やかな傷を消すらしい。
コンによれば、政府から支給される手入セットは特殊なものだという。
拭い紙も打粉も霊力の伝導力が良いもので、作業を効率化を図った設計になっているらしい。
目視できる傷がなくなった時点で、油塗紙に油を取り、下から上へかけて塗布して行く。
素人なので3回ほどやっておいたほうがいいと三日月様に言われたので、その通りに。
最後にどこも傷がないか目視で確認して、鞘へと戻す。
キン、と微かな音とともに鞘へ完全に戻った時、傷ついていた持ち手の部分と鞘の部分も綺麗に傷が癒えた。
「、っは、」
目の前の刀置台に刀を置き、懐紙を唇から離した時、短く息が溢れる。
全力疾走でもしたかのようにドクドクと心臓が跳ねているのを感じながら、暫しの間瞼を下ろした。
「……大丈夫？」
「はい。乱 藤四郎様、お加減は、」
目を開けた時、ふわりと目の前に薄い桃色が舞う。
そこには、傷一つない乱 藤四郎様のお姿があった。
ひらひらと透けたような桜の花びらは、彼の背後から舞っているようにも見える。
三日月様の隣でお茶をのんでいたときと、同じもののようだった。
「手入ってこんなものなの？」
「…お気に召しませんでしたか？何か、私が間違ってしまったのかも、」
「ちっがうよ！その逆！こんな手入されたら…！」
ぶわりと乱 藤四郎様の声と共に舞い上がった花びら。
手入部屋の床に散らばっていて、少し勿体無いと思う。
「…こんなことされたら、アナタ以外じゃ満足できなくなっちゃうよ…」
「……誤解が生じるような言い方ですね」
「っふふ、でもそう思ったのは本当だよ。それにアナタの霊力は…ううん、何でもないや」
にっこりと笑った彼の周りに桜が舞い、とても美しい一枚の絵画のよう。
途中で途切れてしまった言葉が少し気になるが、それを聞き出せるほど言葉が巧みなわけでもない。
「ありがとう、あるじさん」
「え、」
「じゃ、次が詰まってるから僕はもう行くね」
刀を手に取りひらひらと手を振った彼は、呆然としている私を置いて手入部屋を出て行った。
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
