【刀剣乱舞】かの瞳は雄弁に語る。 (ページ43)

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四十三柱ページ43

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「お待たせいたしました」

「…ふむ、洋服、といったか。涼しげな格好だ」

「はい、左様にございます。こちら、新しくお淹れしたものと換えますね」

自分の湯のみと三日月様の湯のみにお茶を注ぐ。

それから、お隣失礼しますと声をかけて少し間を空けて座った。

…真向かいにいるよりは、マシか。

自身のドクドクとうるさい心臓の音に、冷静にそう判断を下す。

なんとなくお茶を手に取り、飲むでもなく揺らめく水面を見ていた。

「おお、」

不意に、三日月様が声を上げる。

意識を完全にどこかへ飛ばしていた私は、びくりと肩を揺らしてしまった。

「みろ、主」

「…はい？」

「茶柱だ」

湯呑みをずい、と近づけられ、遠慮がちに覗き込む。

そこには、真ん中に真っ直ぐピンと立った茶柱。

思わず顔を上げれば、目をキラキラと輝かせたとても美しいご尊顔が。

…そんなに、嬉しいの？

「…っふ、やっと笑ったなあ、主よ」

「っ、ぇ、」

彼の声に、湯呑みから片手を離して顔を覆う。

そうすれば、困ったように笑う三日月様が言った。

「そんなに心配しなくとも、表情は無いままさ」

「…では、笑った、とは…？」

「瞳、だ。お主は表情には出さぬ代わりに、その分目で語るからな」

ほら今も驚いたと目が言っている、といわれ、片目を瞼の上に置いてみる。

「そのようなこと、はじめて…言われました」

「ならば、主の周りには目を真っ直ぐと見て話せる者がいなかったのだな」

「…い、え…」

そんなことない、といいかけてハッと気づく。

果たして、私は5年前のあの日から、一度でも人の目を見たことがあったかと。

「どうやら、心当たりがあるようだな。俺に…いや、俺たちに目を合わせることができるのは、俺たちが『神』だからか」

黙り込んだ私に、三日月様は朗らかに笑う。

「ああ、そんなに深く考えずとも良い。ただのジジイの独り言さ」

「…私は、感情を外に出してはいけないのです」

「なら出さずともいい。俺は目さえ見れば解る」

自分を戒めるように呟いた声に、肯定が帰ってきたことに内心驚く。

その後に続けられた自信に満ちた声色になんて返せばいいかわからず、口を噤んだ。

「主の感情を感じ取ることができるのが俺だけ、とは…中々に愉快なものだなあ」

暫く経った後に、そんなしみじみとした声とともに視界の端に映るは。

季節外れの、透明な桃色の桜の花びらだった。