三十五柱 ページ35
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紺色のシンプルな紬に、白と青が散りばめられた灰色の半幅帯。
結び目が少し不恰好になってしまったので、それを隠すためにコンに手渡された羽織は黒いレースで出来たものだった。
「…これじゃあ、走れないな」
「走るよりも縮地の方が早いですよ」
「それもそうか。じゃあ…これじゃあ、避けれないな」
「刀剣男士の太刀筋が見えないのでは避けられないでしょう」
「それもそうか………命日だな」
「……諦めないでください」
足袋を履いて、離れの玄関に向かう。
そこには、黒地に金細工の下駄が置かれていた。
「コン、色々ありがとうね」
「…全て審神者様の通帳から引き落としてしまいましたけどね」
「……やってくれるねぇ」
この狐…人の金で…と思いつつ下駄を引っ掛けた。
「さて、行くかな」
「…やはり、私めも」
「昨日話したでしょう。もし私に何かあった場合、政府に連絡できる者が必要だと」
しゅん、と顔に影を落とすコンの頭を優しく撫でる。
「信用してるから。私が帰ってこなかったら、お願いね」
「わかりました。…私めは、審神者様の笑顔を見るまではお側を離れませんぞ！」
「…それはいつまでも無理だと思うけど」
行ってくる、と言葉を残して離れを出た。
母屋の庭に足を踏み入れた時、さり気なく背後を確認する。
…コンは、付いてきていない。
「…お待たせいたしました。燭台切 光忠様」
母屋の前に立っていたのは、燭台切 光忠様。
彼は、私を一瞥して背を向ける。
お出迎えは、彼だけのようだ。
…この分じゃ呑気に自己紹介をしている場合じゃないな。
コンに頼んで、刀剣男士様方の名を覚えたのはいい判断だったか。
そんな事を思いながら、足を踏み入れた。
白い足袋で血が飛び散っている床を歩くのは気が引けたが、そう言ってもいられない。
幸い乾いているようで、侵食することはなさそうだ。
漂っているのは血の匂いで、時たま言葉では言い表せない生臭さが鼻をつく。
「…ここだよ」
大きな襖の前で、彼の足が止まる。
私は廊下に正座をし、背筋を伸ばした。
そして、右手で引手の部分に指を引っ掛け、10センチほど開ける。
…それで右手を縁に。
体の真ん中まで開けたら、今度は左手も添えて体が通る程度に開ける…よし。
付け焼き刃だが、和室の入り方は昨日ネット知識で練習しておいたのだ。
両手を膝の前につき、頭を下げる。
「失礼いたします」
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
