三十四柱 ページ34
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「…命日、か」
「審神者様!諦めないでくださいませ!」
障子から差し込む朝日の光に目を細めながら、私は自分の命の終わりを悟った。
…というのは冗談だが、結局として結界に柔軟性を持たせる練習が実ることはなかった。
「避ける練習もしておけばよかったか…」
「人間が練度の高い刀剣男士の太刀筋が見えるとお思いですか」
「…うん、無理か」
まあ、二日間で張れたら苦労はないか。
寝不足でぼんやりとした頭を振りながら、立ち上がる。
そして軽く身支度を整えて母屋の庭に出た。
「おはよう、今日はブラッシングの日だよ」
厩に行き、水を変えてから手慣れたようにブラッシングを終えた。
お礼を告げるかのように手に顔を擦り付ける馬に笑いながら、今度は畑へ向かう。
雑草を抜いて、食べ頃のものを収穫し、水を撒いた。
せっかくここまで育てたのに、もしかしたら明日は収穫する手がないかもしれないなぁ。
馬だって、庭だって、池だってここまで生き返ったのに、朽ちていくだけになるのか。
死ぬ気はない、と乱 藤四郎様には言った。
私自身、死ぬ気は一切ない。
しかし、『絶対』なんてこの世には無いのだ。
それ故に、昼の話し合いはどうなるのか見当もつかない。
刀が私に向けられたとしよう。
私の身を断ち切るべく振り下ろされる刀は、この体を通るのか。
それとも私は死を恐れるあまり、刀剣男士を傷つける結界を張ってしまうのか。
もしかしたら、剣を突きつけられる事さえも無いかもしれない。
「…明日、お前達は誰の手からエサを貰うんだろうね」
ぴしゃりと尾びれで水面を叩く錦鯉。
知る由も無い、と言われた気分だった。
さて、用意をしなくてはいけないね。
手に持っていたエサを全て投げ入れて、コンが待つ離れへ足を向けた。
…やはり、刀を避けるために動きやすい格好で行くべきだろうか。
「審神者様!こちらを」
シャワーから出ればコンが用意していたのは振袖。
振袖が未婚女性の礼服だと彼は言うが、残念ながら私一人で振袖は着れない。
着れないのか、という顔を向けられたので頰を抓ってやる。
「まだ袴の方が、」
「…審神者様はまだ避ける事をお考えですね」
「…いや、それだけじゃ無いよ。それもあるけど」
結局、着物を身につける。
といっても紬と呼ばれる普段着になるシンプルな紺色のものだ。
苦戦しつつ半幅帯を結べば、どうにか見れるようになった。
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時