三柱 ページ3
．
「つまり、付喪神を従えて戦に赴けと」
「ええ。端的に言えばそうなりますね」
誠に信じられない話だった。
歴史修正主義者という存在によって捻じ曲げられようとしている過去。
それを阻止するために刀の付喪神の力を借りた時の政府。
また、付喪神に身体を与えることができるのは審神者と呼ばれる特異な力を持つ者。
時を重ねるごとに増す歴史修正主義者の力に対抗するため、時の政府は過去や未来の人間にも審神者として徴集をかけているのだという。
そしてその白羽の矢の一つが私にも刺さった…らしい。
「そして、拒否権は与えられない…と」
「はい」
微笑んだまま頷く柏木さん。
先程手渡された一枚の紙に視線を落とす。
そこには、審神者に任命する旨が書かれており、時の政府の判が押されていた。
「…なるほど、戦争中の『赤紙』の様なものですか」
「ああ、上手いことを仰られますね。一応括りとしては公務員なのですが…」
まあ、赤紙とさして変わりはありませんね…戦争ですから。
そう言った彼は、説明に使ったパソコンを丁寧にしまう。
説明はもう終わったのかと肩の力を抜きかけた時、彼は口を開く。
「ここからが本題です」
…今までのは前置きだったんですね。
「A様にこれから行って頂く本丸は、俗に言う『ブラック本丸』、もしくは『黒本丸』という少々特殊な事情を抱えた本丸になります」
「…ブラック、本丸」
本丸とは刀剣男士と審神者の住まい…或いは拠点となる場所だと言うことは先程の説明で分かった。
しかし、『ブラック』とはどういう事だろうか。
怪訝そうな私の雰囲気に構いもせず、柏木さんは淡々と説明していく。
どうやら『ブラック本丸』とは、刀剣男士という付喪神を不当に扱う審神者がいる本丸で。
それはもう、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどと言う言葉では表せないほど過激なところもあるのだとか。
「…よく、そんなことをできるものですね」
ポツリと溢れた声は、予想外に震えていた。
しかしそれはありきたりな悲しみや怒りなどではない。
…純粋な、恐怖だ。
「時の政府、とは、酷く恐ろしい組織ですね」
「…その言葉の意味を伺っても？」
興味深い、とでもいいそうな声音で私をジッと見つめる柏木さん。
それをまっすぐと見返して、ゆっくりと口を開いた。
「付喪神は、末席と言えども『神』です」
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
