十一柱 ページ11
．
人質、か。
小賢しい手口だ。
その女は、卑劣な手を使ったらしい。
家族の様に共に育ってきた仲間の刀剣男士に。
いや、それよりもひどいのは兄弟の関係を逆手に取ったことだ。
刀派によって、兄弟の様に接し合う刀剣男士もいるらしい。
特に、“粟田口”という刀派は兄の様な存在が一振りおり、それ以外はほぼ弟なのだと言う。
その兄の立場に置かれている“一期一振”という刀は、見目も麗しく、物腰の柔らかさから審神者に酷く好かれていたらしい。
また、弟を溺愛というレベルで愛しており、弟を人質に取られれば従うしかなかったのだという。
他にも、縁のある刀剣男士を人質に取ったり。
心根の優しい者をターゲットにしたりと、好き放題したようだ。
「私めはそれを知り、すぐに政府へ掛け合ったのですが…」
「権力者の娘じゃ、どうしようもないよねぇ」
担当に訴えようが、すぐに揉み消され無かったことに。
一人目の時の担当は、それに対抗しようとして左遷されたのだという。
「初めの頃は夜伽のみで済んだのですが…。だんだんと思い通りにならぬ事が出てくるとあの娘は癇癪を起こしました」
刀剣男士が自分以外を優先すれば怒鳴り。
刀剣男士が甘い言葉を吐かなければ物を投げ。
刀剣男士が不満を訴えれば殴られる。
その女の機嫌によってヒステリックに怒鳴られ、無抵抗で痛めつけられ、仲間を人質に取られ。
さらに、審神者は『言霊』というものを使えるらしく、抵抗を一切封じた。
しかも、それだけでは飽き足らず、気に入らない刀剣男士は重傷になっても手入れをせずに戦へ送り込み。
そして折れる寸前まで酷使して、刀剣男士に懇願させるのを何よりも楽しそうにしていたらしい。
「…とんでもない人間だな」
いくら物であるといっても、彼らは人の形をしている。
怪我をすれば血は出るし、辛い事があれば涙を流すだろう。
そんな姿を見て、その女は何も思わなかったとでもいうのか。
それ以前に、その女は彼らが神様であるということを失念でもしていたのだろうか。
…神様にそんな仕打ちをして、なにも罰がくだらないとでも思っていたのか。
「結局、娘の親の悪事がバレ、隠蔽していたらしいこの本丸のことも明るみに出たのでございます」
「蛙の子は蛙か。…3人目は？まともなのが来たの？」
「…いいえ。政府が次に手配したのは、穏やかな仮面を付けた血も涙もない人間でございました」
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
