【刀剣乱舞】かの瞳は雄弁に語る。 (ページ2)

今日:7 hit、昨日:35 hit、合計:129,807 hit

二柱ページ2

．

私の住んでいたマンションの外には、黒塗りの車が横付けされていた。

柏木さんに先に外に出ていてくれと言われた私は、携帯一つ持たずにエントランスを出る。

何も持ち込むことを許さないと、柏木さんに言われたからだ。

しかし、私には手放せないものが一つだけあった。

…ああ、ハイネック着ててよかった。

首回りにシャラリと金属の擦れる感覚を確かめながら歩く。

家や携帯を簡単に諦められたのも、優先順位の最上点に立つこのネックレスを身につけていたから。

誰にも見られないように、一つ安堵のため息を吐いた。

「A様、こちらへ」

そんな私に声をかけたのは、柏木さんと同じようなスーツを身につけた男性。

彼は私を見るや否や車のドアを開け、乗り込むように促す。

誘導されるがままに足を踏み入れ、少し固まる。

普通の車とは違う作りで、後部座席が向かい合うようになっていたからだ。

…簡易的なリムジン、って所かな。

飲み物や茶請けを出され、それに手をつけることもなく待つこと10分程度。

逃げ出せるだろうか、などと馬鹿みたいなことを考え始めた時、車のドアが開いた。

「お待たせいたしました」

先程と変わらず、にっこりと笑った柏木さんが車に乗り込む。

スーッと滑るようにして走り出す車。

それと同時に、スモーク加工のされた窓に自動でカーテンが掛かった。

「それでは『審神者』というものから、ご説明いたします」

マンションの契約を切った事、私物は政府が責任を持って管理するなどをさらりと説明した柏木さんは、カバンの中に手を突っ込み始めた。

そして、カーテンが閉まり切ると共に車内が明るくなり、目の前にはパソコンが置かれる。

パワーポイント形式であろう資料の表紙が写っている。

『審神者とは何か』というタイトルの横には、歌舞伎の隈取りの模様が入ったヘンテコな狐のイラストが入っていた。

アンバランスなような、最適解のような絶妙なそのイラストを思わずジッと見つめてしまう。

「ああ、これは『こんのすけ』と言って…まあ、時の政府のマスコットのようなものです」

「こんのすけ…」

なんて安直な名前…いや、マスコットだからこそそれくらいでいいのか…？

そんな風に思っていれば、柏木さんによる審神者講座が始まった。

なんとなくやる気が出ないままに、ぼんやりと耳に入れる。

…審神者、ねぇ。