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スマホを取りにいった帆乃花を見送って、冷蔵庫にしまっておいたある物を取り出す。うん、中身は大丈夫そう。
「さっ、食べよ……なにそれ？ 」
「私からのバレンタイン」
「えっそんなの作ってたっけ」
「昨日の夜に作ったの」
赤色のリボンを解けば、中にはアイシングクッキーとキャラメル。クッキーにはタイルのような対称模様を描いて、キャラメルはクマ型にくり抜いた力作だ。
「ほんっとにそーいうとこだよ」
「ん？ 」
「モテるオンナの権化みたいな生き方してるよね」
「素直に受け取りなさいよ」
「ハイ」
「シェアハウスするってなった時はマジかってなったけどさ。意外といいもんだね、これ」
「そもそもお互いのパーソナルスペースに入り込んでたからね」
「……結婚できんのかな」
「なに、急に」
「普通に恋愛して、普通に家庭作って、なんて未来がどうしても想像できなくて」
「帆乃花なら大丈夫でしょ。愛される才能もあるし、人を見る目もちゃんとあるから」
「Aは？ そういう願望ないの？ 」
「私は無いなぁ。男の人に振り回されるのはもうこりごり」
「仕事のこととか抜きにしても？ 」
「うん。親には申し訳ないけどね。子どもも正直あんまり得意じゃないからさ」
「恋愛でさえもしないってこと？ 」
「恋愛対象として見られないように振る舞うことだけは得意だからさ。この先も私が恋を実らせることなんてありえないよ」
「変な特技」
「色々と便利なのよ、これ」
そうして私たちは美味しくお菓子を平らげ、そのまま昼の街へと出かけた。それはそれは楽しい先どりバレンタインを過ごしたのだった。
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作者名：風呂 | 作成日時：2023年1月29日 15時
