拾壱ノ参 相対する想い ページ44
【喧騒に隠れて紅暮れ】
夢、だろうか。古い煉瓦造りの真夜中の街を二人で歩いている。見慣れない服装に、見慣れない提灯。提灯の灯りが静かに影を作る。
「A、遅くなってすまない」
『いえ、迎えに来てくれてありがとうございます。それだけで充分ですので』
いつも隣で、否。ずっと昔から聞き慣れた声に優しく返す。肩を抱き寄せられた。提灯が灯っているというのに、彼の顔は見えない。
白い肩掛けの絹糸が、汚れ一つない着物と擦り合う。当然、下駄も大通りの喧騒とは似ても似つかない不気味な音を響かせて奏でる。
『都会は夜も騒がしいですね』
「うむ。俺達が暮らしてるのは裕福層だから、仕方あるまい。礼儀も作法もそういうものだ」
『……千寿郎は寝ましたか』
「嗚呼、自分も行くと云っていたが。夜には“鬼”が出るからな。上手く言いくるめた」
鬼。不可解な単語に酷く聞き覚えがあるというか。視界が点滅して、何かの光景と重なる。鮮血が飛び、焼けるような痛みと。
そして愛しい彼の悲痛な叫び声。そして頬を撫でた感触と同時に。何かを失った感覚と真っ暗になって、何時までも落ちていく感覚。
何だったのだろうか。どうして今、自分が此処に居るのか理解できていない。提灯が大きく揺れて、弾けるように記憶の奔流が。
あ、あ、あ、あ。そうだ、死んだんだ。背中を鋭い刀で斬られた。そう仕向けた。彼が少しでも、生きてくれることを願って。死んだ。
「遅くなって、すまなかった」
目の前の彼が云った。相変わらず顔は夜闇に閉ざされて窺うことはできないけれど。確かに。隣で話しているのは。煉獄杏寿郎である。
『あな、たは』
「A、俺は」
『_______』
「君が忘れていようと構わない。君は君だ。A本人だ。俺は何時だって愛している」
『杏寿郎さん……』
「“君の記憶をやっと見つけた”」
『私、私は』
「すまなかった。自惚れていたんだ、俺が絶対に君との幸せを忘れないと心に刻んだけれど、Aは違った」
『違うんです、私は』
「理解している」
日溜まりの香り。暖かい炎のように、母親の胎内のように。揺りかごに揺られたように。ひどく懐かしい言葉に。幸福に胸を焦がされた。
『……知ってたんですか』
「気付いたよ。A、君は俺との思い出よりも。“縁”を繋がりを大切にしていてくれたんだろう?」
提灯の灯りが彼の満面の微笑みを照らした。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時