伍ノ弐 揺られる汽車 ページ23
【甘い甘い夢の中】
隣には鬼の箱。向かいには杏寿郎と炭治郎。二人の会話についていけないまま、ぼんやりと窓の外を眺めていたときだった。
猪頭の少年____名前は確か、伊之助だったか____が電車から身を乗り出した。落ちてしまいそうで、思わず立ち上がる。
引き戻した方が良いだろうか。そこを杏寿郎に止められる。仕方なく、箱の隣に座り直した。あぁ、見ていて怖い。
「危険だぞ!いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」
『「え?」』
善逸と声が被る。そんなことは聞いてなかった。懐の日輪刀の刃を持つ短刀を握り締める。いつ、鬼が来るか分からない。
「嘘でしょ、鬼出るんですか、この汽車」
「出る!」
「出んのかい!!嫌ァ_____ッ!!鬼の所に移動してるんじゃなくてここに出るの嫌ァ______ッ!!俺、降りる」
「短期間のうちに、この汽車で四十人の人が行方不明となっている!」
その言葉にゾワリと背筋に冷たいものが走った。それが分かったのか、杏寿郎はAの震える手に、自分の手を重ね握った。
「数名の剣士を送り込んだが、全員消息を絶った!だから柱である俺が来た!」
「はァ_____ッ!!なるほどね!!降ります!!」
泣き目になっている善逸。確かに、一人だったらAも不安で押し潰されてしまうだろう。それでも、杏寿郎を信頼しているから。
この手を握ってくれる、鍛え抜かれた掌の分厚い皮。優しく見守ってくれる瞳。それら全てを愛しているから。恐怖はない。
「切符…拝見…致します」
「??何ですか?」
「車掌さんが切符を確認して、切り込みを入れてくれるんだ」
「おりるぅぅぅ」
パチンパチンと軽快な音とは反対に、車掌の痩せこけた頬は気味が悪い。差別とかではなく、単純に嫌な雰囲気があった。
躊躇うような、戸惑うような、それでいて何かにすがるような。罪悪感を溢れさせる、そんな表情だったから。
「拝見しました…」
途端に体に力が入らなくなった。まだ、寝惚けていたのだろうか。悪いな、と思いながら箱に寄り掛かるようにして、瞼を閉じた。
ここは何処だろう。霧のかかったように、ぼんやりとした頭。手探りで進む。この塀は屋敷だ。雪代家の、屋敷。
「姉ちゃん!!」
『……縁?』
漆黒の髪に、漆黒の瞳。それが視界に入った。飛びつかれて、衝撃が走る。抱き止めてから、前を向いた時。息を呑んだ。
「A、夕飯ができましたよ」
「あなや。A、縁、今日は牛肉だな」
『父上、母上……』
在りもしない、輝けるも儚い日々。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時