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追憶ノ陸___高潔な温もりに ページ12

【どれだけ貴方に救われたか】


冷たい骸を延々と抱き締めたまま、彼の腕の中で眠ってしまった。その温もりに安心したからだろうか、冷えきった身体を摩った。

「起きたか……」



『杏寿郎さん』



あぁ、どうして。なんで、貴方の方が哀しそうな顔をしているの。今にも泣き出してしまいそうな、その顔は一体何?

「すまなかった」



『え……?』



「俺がもっと、早く駆け付けていれば……」



『違う、貴方のせいじゃ……』



白い布団を握り締め、言葉を失う。どうすれば、杏寿郎が負い目として感じてしまう部分を消すことができるのだろうか。

決して彼のせいではないのに。何時もの笑顔が消えていて、代わりに目尻を下げ、泣いてしまいそうな杏寿郎。

「俺は君に、なんと謝れば良いのだ……?」



その言葉に、己の中の奥底でたゆたっていた水面が嵐の海のように荒立ち、怒りの激情へと変わっていく。

Aは隣にいる杏寿郎の頬を叩いた。パチンっと弾けるような音が、高らかと響く。された側は、頬をおさえてAを見つめた。

「守れなくて、すまない……」



『違います、私はそこに怒っているわけではありません』



赤く腫れてしまった頬をおさえる手に、Aは自身の手をそっと添えた。彼の大きく厚い掌とは違い、小さく細く頼りない手だ。

『貴方のせいではないんです』



「A……」



『守れなかった……?違います、杏寿郎さんは何も悪くありません。弱くも、無力でもないです』



こんなことを、その場で一番、脆く弱く無力だった奴に言われても意味がないだろう。それでも、やはり伝えるべきだったのだ。

彼の瞳に涙が溢れる。驚きで息を呑んだ。次の瞬間には、Aの体は杏寿郎の腕の中に包み込まれていた。

『杏寿郎、さん……?』



「俺は弱いな!一番辛いのはAだと言うのに。励まされてしまった!努力しなければな!」



顔は抱き締められていて見えないが、震えている。泣いているのだろう。嗚咽が耳に届いた。それは、悲痛な感情を物語っている。

杏寿郎も父と同じように学んでいたAの父を、千寿郎と同じように可愛がっていた縁を失い、心は引き裂かれているのだ。

背中に手を回し、トントンと子供をあやすように軽く叩く。落ち着かせるように、慈しむように、安らかに微笑みながら。

「う、ぁ」



『大丈夫、私が居ます』



強く抱き締められた体。杏寿郎にとってもAにとっても、この出来事は酷く痛手を残した。そして杏寿郎の最も悔やむことの一つにもなる。

弐ノ壱 当主の考え→←追憶ノ伍___死の贈り物



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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時

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