12月、プールサイドに浮かぶ死体［Nao.O］ (ページ9)

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ニュース番組は嫌いだ。

事件の異常性を説くキャスターやコメンテーター。わざとらしく眉を寄せて肩を震わす知らないタレント。
この人達はいったい誰に対して怒り、何をそんなに怯えているのだろう。

純粋に疑問だった。

想像だけでこんなにも怒り狂えることが。
そして、それと同時に怖かった。

まるで、私の母親を見ているみたいで。

母はよく、想像だけでヒステリックに泣き叫び、それに怒った父が私を殴った。

「A、A〜」

「……ん」

「どうしたの、ぼうっとして」

「なんでもない」

「ニュース？」

右手には自分用のホットコーヒー、左手には私用のホットミルクを持った尚大くんが、ゆっくりと隣に座る。
洗いざらした湿った黒髪からは同じジャンプーの匂いが香った。

「はい、熱いよ」

「ありがとう」

尚大くんはいつも、こうして私に声をかけてくれる。

ご飯を食べるとき、ホットミルクを飲むときには「熱いよ」。
朝、おはよう。夜、おやすみ。外に出るときには「危ないよ」と、そっと手を差し伸べてくれる。

当たり前に、何気なしに。

その優しさが、私は泣きたくなるほど嬉しかった。

母も父も誰も
愛なんて甘いだけのものはもちろん、優しさだって与えはくれなかった。

傍にいてくれるのも、優しいのも、愛情も。尚大くんがくれるもの全部、私にとっては初めてなんだ。

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