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恐怖と痛みに支配されかけたそのとき、誰かに呼ばれて私は目を覚ました。
「A……、A！」
瞼を開くより先に、汗で濡れた身体に張りつくパジャマの気持ち悪さとバクバクと鳴る心臓の音を感じて、私は飛び起きるようにベッドから背中を剥いだ。
「ずっと魘されてたよ。大丈夫？」
「……なおくん……。
こわい、夢をみてた」
「そっか。もう大丈夫だから、こっちにおいで」
そう言って尚大くんが私の背中に手を回し、包み込むように抱き締められる。
戸惑いながらおずおずと抱き締め返すと、父よりも小さいと思っていた尚大くんの背中は想像していたよりずっと広く筋肉質で、心臓がさっきとは違う意味で大きく鳴った。
「怖い夢を見たときは俺が助けてあげる。
Aを傷つけるものがあれば俺が壊すし、Aを傷つける人間がいるなら俺が殺す。
俺が一生Aの傍にいてあげるから
だからもう何も怖がらなくていいんだよ」
「……ありがとう」
ひくい低い声だった。
私を落ち着かせるためだけに言っている優しいでまかせではなく、彼は本気だと分かった。
だけど私は、そんな尚大くんを不思議と怖いとは思わなかった。
むしろ逆だった。
この人は、私のためならなんでもやる。
きっと本当に、人を殺めることすら厭わないだろう。
ふつふつと、腹の底から罪悪感を孕んだ不埒な喜びが湧き上がるのを感じた。
私の中のわるい虫が、目を覚ます。
彼に抱き締められていた私には、月光に照らされてギラギラと輝く尚大くんの瞳が見えなかった。
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作者名：ベルカ | 作成日時：2023年3月21日 0時
