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父が私に気づくと、絶対に殴られた。
野生の動物から襲われるのと同じだと思っていたから、なるべく父の視界に入らないように、自分の存在に気づかれないようにしていた。
母からは毎日「死ね」と言われたし、彼女はことある事に「あんたさえいなければ」と恨み目で私を罵るので、目を合わさないようにしていた。
私のために何かが用意されるなんて経験はなかった。
食事も布団も、冷蔵庫の中から賞味期限が近い、時には切れたものを一人のときにこっそりと食べたり、家の奥にあったものを押し入れに敷き、寒さに震えながら夜を明かしたりしていた。
いつの間にかこうだった。
たぶん、はじめからそうだった。
だから私は知らぬ間に自分で大人になった。
父と母からまともに何かをしてもらった記憶はないので、身近な大人として彼らを頼ったことはなかった。
父と母、というのはあくまで形式上、彼らをその位置づけにしているだけであって、私が彼らのことを呼んだことはないので、今更お父さん、お母さんと言うのは違和感があった。気持ち悪さすら感じるほどに。
私にとっては光輝くんや尚大くんの方がよっぽど、家族と呼ぶに相応しい相手だと思っている。
一緒に過ごし、ご飯を食べ、同じお湯のお風呂に入り、勉強をして、会話をして眠りにつく。
だから尚更、この生活を失うのが怖かった。
午前2時、突然母が目を覚まし、泣き始める。その泣き声に起こされた父が母を殴り、押し入れの中で息を潜めていた私に気づき、憂さ晴らしのために私のことも殴る。
何かに怯え泣き続ける母
目をギラギラと光らせ私を殴る酒に酔った父
寝静まった夜に、父が私を殴る音だけが響く。
拳と頬骨がぶつかる音、内蔵を踏まれる鈍くくぐもった音、私から漏れる呻き声。
ボロボロに擦り切れたカーテンの隙間から差した月明かりに照らされる父の顔は、この世のものとは思えないほど真っ白で、人形のように無表情だった。
声は、出ない。
ただ、呼吸がどんどん浅くなって死に近づいていくのが分かる。
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作者名：ベルカ | 作成日時：2023年3月21日 0時
