プロ野球と短いお話

ヒーロー H30 ページ6

茉乃さん request

何回目だろう。この言葉。

「あ、ごめん。帰れんくなった。」

何回目だろう。この返事。

「うん、分かった。大丈夫。」

＊

携帯がブブブッと震えて、見ると見慣れたLINEの通知。

確認してから、お鍋の火を消して自分の分をお皿につぐ。あの人の分には蓋をして。

この作業にも、もう慣れた。

「今日はラーメンだったのにな……」

しかもとんこつ。だってあの人が好きだから。

私はラーメンが嫌いなのに、あの人のためだって思って作り方も覚えて、色々アレンジもして……でもダメみたい。

「いただきます。」

やっぱり美味しくない。ギトギトしてて脂っこくて...でもあの人が好きだから。私も好きになりたい。

マッチさんとか内川さんとかは「一途だね」とか言ってくれるけどそうじゃない。あの人とじゃないと私が生きていけない。

依存してるだけ。

別に好きでもない。嫌いでもない。生きていくために必要な人。

「ごちそうさま。」

テレビをつけるとソフトバンクホークスのヒーローインタビュー。

「今日のヒーローは、完封しました武田選手でーー

アナウンサーが言い終わらないうちにブチッとテレビの電源を切る。

「ヒーロー...か」

嘘だ。私にとってあの人がヒーローだったことなんてない。

お見合いで夫婦になって。その時から私たちの間に愛は無かった。

もちろん外じゃ、いい奥さんといい旦那さん。でもお家じゃ違う。いや、そもそも帰ってこないからお家、なんて言葉はおかしいかな。

＊

私のヒーローはどこにいるの。

好きじゃないなんて嘘。嫌いじゃないなんて嘘。

テレビの中じゃ大好きで。スタジアムの中じゃ大好きで。
でも、現実じゃ大嫌いで。

私の唯一のヒーローは私の所にはこないけど。

昨日も今日も明日も。
私はご飯と一緒に待つよ、ヒーロー。

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