プロ野球と短いお話

縋らせて De8 ページ19

沖縄で唯一、海のない町。

そこが私と和毅の生まれ育った町だった。
ちっちゃい頃からずっと隣にいた私は君と離れるとか、そんな事を考えもしなかった。
同じ小学校に行って、同じ中学校に行って、同じ高校に行って。その後も同じだって思ってた。


でも、和毅はそうじゃなかったみたい。

「A」
『どしたの？』
「俺さ、大学、中央大学に行く。」
『え...？沖縄から出るってこと？』
「そう。だから...Aとは大学は別々。Aは琉球大学だろ？」

待って待って待って。

『...うん、そうだよ』
「頑張れ、受験応援してるから」

離れるなんてそんなこと聞いてないし、

『頑張らなきゃいけないのは和毅の方でしょー。私の方が頭いいもーん』
「...俺は推薦だからいいんだよ」

てかそんな事有り得ないし、

『離れちゃうけど...頑張ろうね』
「おう」

だから引き留めなきゃ、絶対

『ちょくちょく連絡してね』
「陸のついでにするかな」
『このブラコンがw』

何してるんだ、私。
結局、想って想って想って、

『ばいばい』
「また明日」

それでも、君に縋ることすら出来ないんだ。

＊

その後、和毅は中央大学に、私は琉球大学に進んだ。
私は卒業してそのまま地元の小学校に赴任した。
和毅は2年社会人野球を経験してからその後、プロに入った。

いつの間にか私たちの世界は離れて、君は遠い存在になっていた。

『春季キャンプ？』
「そーなのよ！多分和毅くんも来てるでしょ？どうせなら行ってきなさいな、試合は遠くて見に行けないんだから。」

ある日、そう母さんに言われて渋々、キャンプ場に向かった。
駐車場に車を止めてグラウンドに行くとちょうど外野手の守備練習中で。

『あ、和毅』

ふふっ、めっちゃ走ってる。外野手に転向したって大学入学した後に言ってたな。意外と似合ってるかも。

「きゃー！神里くーん!!」

あ、こっち向いた。
あ、手振った。けど...なんか変な顔した。

「(なんでいるの)」
『(きまぐれ？)』

小学校、中学校、高校とずーっとやり続けてすごい上手になった口パク。まさかまだ出来るなんてね。

「(そこで待ってろ)」
『(なんで)』
「(なんでも)」

あ、練習に戻って行った。

『あーー、やばい』

泣きそうだ。もう忘れたはずの感情が出てこようとしてるのが分かる。やめてよ、やめてよ。押し殺したのに。君に期待してしまう自分が嫌なんだ。

『和毅の馬鹿』

また縋ることすら出来なのだろうな。


ーーーー

続きます
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