互いの葛藤 ページ39
事情を説明していくと、Aの笑顔に曇りが見え出す。
人魚の肉で、途方もない寿命を得て、死ななくなった。いや───死ねなくなった事。
目を見開き、泳がせながら、Aはかろうじて笑顔を保っていた。
「……な、るほど……あはは、いや……うん……」
引き攣った表情を見てから、アズールは目を見開き俯く。声を、懸命に振り絞る。
「……すみません……」
「いや、アズは悪くないよ、うん。私もアズと同じ立場ならそうしたし……一人になりたくないもんね」
「あ、あの……」
「怒ってないよ、大丈夫……そうだ!今日は、浴槽にお湯張ってもいい?久々にお風呂に浸かりたいなって!」
「…………はい」
「……そんなに落ち込まなくてもいいんだよ」
(だって、こうでもしないと……あなたは自分から死を選ぶかもしれなかった。僕の元から離れてしまうじゃないか……)
「……ごめんね」
「あなたが謝る事じゃ──」
「ううん。不安にさせたんだろ?ごめん」
「……」
「少しだけ、頭冷やしてくるわ」
一言告げ、Aは鏡を通して自分の世界に帰ってしまう。
残されたアズールは、その場に呆然と立ち尽くして数秒、自身のベッドに腰掛ける。
吐き出した息が、酷く震えていた。
(酷く傷つけてしまった……どうしたらいいんだ……)
過ちに気付くのが遅すぎた。
人魚の肉を仕込んでから気付いたことがあった。
彼女は昔、酷い死にたがりであった時期がある。
死なせる事が無くなったと安堵したが、それも束の間だった。
一人残された部屋で、アズールには頭を抱えて考え込む事しか、残されていなかった。
(間違ってはいないと……そう思っていたのに)
歯ぎしりの音が、部屋に響いた。
タイミングを見計らってか、扉が開く。
そのまま部屋に入った客人。
「……ジェイド。戻れと言いましたよね?」
「それを言える状況でしょうか?……貴方が引き起こした事態で、こうなっているのでしょう?」
「……わかっていますよ、その位」
オッドアイが、異世界を繋ぐ鏡に向けられる。
瞳に鋭い輝きを持たせたまま、鏡に歩み寄り、じっと見つめてから目を閉じる。
「こうなれば、実力行使しかないのでは?」
「やめろ。そこまでは望んでいない」
「僕はAさんの幸せを思って言っているんですよ」
「……は?」
呆気に取られるアズールを後目に、ジェイドはクスリ、と困り眉で笑う。
「彼女の頼る所は、もう僕達しか居ないのですよ、アズール」
55人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とある誰かの作品倉庫(プロフ) - 茨の國のぼっちさん» ありがとうございます!!!もう願望詰め放題パラダイス(???)な自己満作品なのですが、喜んで頂けて泣いて喜んでおります!!(セベクボイス)結構お話も長いと思いますので、ぜひ、ご自分に合ったペースで読み進めて頂けると幸いです(笑) (2021年5月6日 20時) (レス) id: ba04661380 (このIDを非表示/違反報告)
茨の國のぼっち(プロフ) - この作品にすごくハマりました!夢主とアズールの性格と、糖度が好きすぎます!一気に読んだらすぐ終わっちゃうので、一日頑張ったご褒美に読んでますw (2021年5月6日 18時) (レス) id: 9a68fed22a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:とある誰かの作品倉庫 | 作成日時:2020年12月24日 9時