あふれてしまう、そのまえに。〜7〜

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みさとさんのピアノが鳴り止むと、
ぐすぐすと泣き出した。


山中くんが。


「いやお前か！」
沢くんが呆れ返る。

「俺だって泣きたくて、泣いてるんじゃないわ！」
言いながら、ずずっと鼻をすする山中くんの後に

「…素敵でした。」

栗野さんも何かを堪えるように、続ける。


「ありがとう、しんみりしちゃう曲調だったものね。」


みさとさんがピアノの鍵盤に触れて視線を落とした。

「この曲は私の妻が好きで弾いてた曲でね。」

オーナーがゆっくり口を開いた。

「10年前にもう会えない存在になったが、」

部屋はしいんと静寂に包まれる。
Aは自分がどういう顔をしているか分からない。

オーナーは柔らかく笑った。


「しかしよく覚えていたね、妻も喜んでいるよ。ありがとう。」


みさとさんも微笑んだ。
閉店作業から直ぐにこの会の準備に追われて
着替える暇もなかった仕事着のままの白いシャツ。

それにシャンデリアの光が模様の様に落ちている。


オーナーはいつもと変わりなく背筋をしゃんと伸ばして、1人ひとりに語りかけるように話しはじめた。


「今日は皆さん本当にありがとうございます。

このミモザが今もここにあり続けられるのは私だけでは到底出来なかった。」

みさとさんを見るとその品のある皺を深くした。

「妻と2人だけで店を始めて、
…私達は子供が授からなかったからね。
今こうして」

オーナーがテヒョンくん、それからジョングクくんを見つめる。


「息子のような君達とも店に立てて

見ることの出来なかったはずの日々を過ごせて

私は幸せですよ。」


堪え切れなくなった栗野さんが
とうとうぽろぽろと泣き出してしまう。

ジョングクくんが部屋の端にあったティッシュの箱を持って来た。


いつも特別口数が多いわけではないけれど、
それでも彼は今日は殆ど話していない。

ジョングクくんは今日が最後のバイトだった。
そして、明日、帰国する。


ー 当たって砕けます。それを最後にします。ー


また皆が食事を再開する中
Aが昨日送られてきた栗野さんの想いを思い返した時



「Aちゃん、Aちゃん、

ちょっと、きて？」


ふいにテヒョンくんに、おいでおいでと手招きされ近寄ると、

ぐいぐいと手を引かれて部屋の外。

廊下の突き当たり。
の壁に、押しつけられた。

のも間も無く、ふに、唇の感触。

目の前の深く潤んだ瞳に
息を止めたAが映る。


「、もっと。

부족하다」


深く耳元をくすぐる声。

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