あふれてしまう、そのまえに。〜7〜

また、どこかで。 ページ19

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「「カンパーイ！」」

土曜日の夜。21時。

ここミモザの２階ではグラスの鳴る音が響き渡る。

少し早めに店を閉めた。
今日は、特別な日。


「さぁさぁ、今日は飲むわよ、食べるわよ〜！」


みさとさんが高らかな声と共に、オードブルを並べはじめる。
目にも鮮やかな皿がテーブルを埋めていく。


ミモザの30周年、
は正解にいえば来週なのだけれど
古くからの常連さんや店を支えてくれる業者さん達がまた別にお祝いを計画しているそうで。


今宵はスタッフ中心のささやかなお祝い。
本当はオーナーには内密にサプライズとして開きたかった、が、
オーナーは常に店内にいるし、どうしてもこの部屋でしたいという、みさとさんの想いがあって
計画は早々にばれてしまったけれど。

それでも今ここにいるオーナーが本当に嬉しそうに微笑んでいるから、
この場に集まる皆も嬉しかった。

今ここに自分もいることがAは嬉しかった。
ミモザが本当に好きだから、
一緒に祝えることが純粋に嬉しかった。


「Aちゃん、これ、はい。」


隣から降る低くて甘い声に見上げると、
テヒョンくんが串に刺したフライのようなものを手にしている。

「ありがとう。」
受け取ろうとするAにテヒョンくんはひょいと串を遠ざけてしまう。

出しかけた手のやり場をなくしたAは


「はい、あーん。」


少し眉を上げ悪戯っぽく笑うテヒョンくんに
固まる。


…あーん、しろと…？


視界の向こう
どう見ても明らかに視線が泳ぎ始めた栗野さん。
ワイングラス片手に菩薩のような眼差しのオーナーと、あらあらあらとにんまり笑うみさとさん。


「はいどうぞどうぞ遠慮なくどうぞ！」

何故かいる沢くんと山中くんはそう言うなり不自然に背を向けた。


ジョングクくんはそもそもこちらを気にもとめず、チキンを頬張っていた。


向けられたフライをぱくりと口にするしかなかったAは

「…お、オイシイ。」

ミニトマトをベーコンで巻いたそれが本当に美味しくて思わず呟く。

それに、満足したように大きく頷くテヒョンくん。


「ベーコン、はじめてつくりました。」


「自家製ベーコン？作ったの、テヒョンくん？」


「オーナーからおしえてもらいました。」


ちらりとオーナーを見ると、オーナーは部屋に置いてあるピアノを見つめていた。

その瞳がピアノを通して何処か遠くを見ているようで、
なんとなく
Aはそっと目を逸らした。

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