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植物園の巣穴にすむ獣《弐》 ページ38

芥川の呟きは、咳によってさえぎられた。


長距離を走り続けた後のような、内臓が熱を持った感覚がする。しかし心当たりがなく、なぜ自分が病室に寝かされているのかも理解できていなかった。


「もういい」


混乱する芥川に、中也は静かに言った。


「思い出せねえもんはしょうがねえだろ。報告なんざ期待してねえよ。諦めとけ」


一度芥川を座らせ、一呼吸着く。それから云った。


「まず……ここは、病院だ。そりゃ分かるか?」

「……はい」


中也の声が、いつもより細い。従って芥川も声を落としたが、ここは個室だ。何を気にしているのだろうか、と芥川は内心小首をかしげた。


そして不審に思い外へ目をやり―――驚いた。


窓から入る光が、街の光と月光だけになっている。慌てて時計を確認すると、もう随分な夜更けだ。


この時間には もう面会の許可は下りない。とすれば、ここに人が居る可能性はもう一つしかない。


それを決定づけるように、病室には自分のものではない荷物がちらほら置かれている。


中也は泊まり込みで来ているのだと、すぐに察した。 芥川の顔色は、サッと青みが増す。


「俺もちょうどゴタついてた案件が片付いたし、好都合だったんだよ。それより。どうやってここまで来たのか分かるか」


言葉の意味を理解して記憶を掘り起こそうとする。
だが――――、


「どうやって、など……僕は初めから病院に……?」


−−−−病院に、来ていた。何かの理由で。


それ以外の情報が、いや、病院に来るまでの前後の記憶がばっさりと無くなっている。

ただこれだけは覚えていた。中也と何か《重大な約束》をし、病院へ向かったことだけを。


「な? 何も覚えてねえだろ」

「そんな、なぜ、……中也さん、僕の外套はどこに」

「そこにある。昨日手前が担ぎ込まれてから そのまんまだよ」


中也はあくまでも冷静だ。苛立ちや焦りも感じられない。


芥川は想った。


己が忘れたのは任務ではなく約束だ。


この人が“私的に頭を下げた”ことだ。


それなのに、何一つも覚えていないとは、どういうことだ。

植物園の巣穴にすむ獣《参》→←植物園の巣穴にすむ獣《壱》



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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時

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