キルケゴールと踊る《弐》 ページ3
中也の重力に負けた足場が、ミシミシと音を立てて崩れる。
屋上を凍るような月光が照らし、足立の黒い影の輪郭を、浅くなぞっている。
「足立、追うんじゃねえ!!ガキはもう死んだ!!!」
足立は中也の方を黒目だけで振り返った。虚な目だった。
左手には刀を握っており、月光を鈍く反射している。まるで一筋の光が、闇夜に浮かんでいるようだった。
その肌は白くて青い。今の足立の身体には、圧倒的に血が足りていない。
手をぐ、と握り込む。
それから柵を高く飛び越え、刀を構えた足立と真っ直ぐに向き合った。
「……手前が死んでも、ガキは戻ってこない。無駄なことはやめろ」
二週間前のことだ。忘れようもない。
首領の執務室に、足立は大量の血を流して倒れていた。その周囲にはアンドレ・ジイド率いる「ミミック」の残党が、死体の山になっていたのだ。
——しかしどちらが加害者なのか、結果は分かっていた。ミミックの残党へ先に戦いをしかけたのは足立であった。
織田作之助が養っていた子供たちを、ミミックの襲撃から救うために。
動機がどうあれ、命令違反にほかならない。私闘をしかけた足立一之を罰するために、中原中也はここに居る。
「もうわかってんだろ。手前は敗けたんだ」
「……。」
「いいか。手前の不手際でガキが死んだんじゃねえよ、足立。もう死ぬことはとっくに決まってたんだ。
ポートマフィアって組織が、暴力と血の上に成り立ってるのをよく知ってるのは手前の方だろ。……俺の言いたいことが判るな」
中也は決して警戒をゆるめなかった。たった16才の少年が、2桁の手練れの傭兵を全滅させた事実は揺るがない。
「刀、下ろせ」
静かに足立に向かって三歩すすむ。心理的に近づけるギリギリの所まで。
「あの傭兵どもが、ガキをどうやって殺したのか。…どんだけ
中也の言葉は優しい。しかし声音は決して同情的ではなかった。
「―――だからどうした? 甘ったれてんじゃねえぞ。あれは、首領が立てた作戦の一環だったんだよ!
手前一人の意思で覆せることじゃねえ!!!」
策を妨害した罪の重さを、組織人として、中也は責めずにはいれらない。感情に任せ、一気に足立との間合いを詰めた。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時