おしからざりし命さえ《伍》 ページ15
「何?」
「あのように向こう見ずに暴れれば、Qに呪われるぞ」
紅葉は乱れた着物を戻し、読めない笑みをうかべる。
「太宰より教わらなかったか? 【精神操作の異能者は、自分を殺したものの脳髄にとり憑き、死ぬまで呪う】と。万一お前様がQを手にかければ、一生うなされることになるのじゃ」
紅葉は黒服に指示を出しながら、着物を翻して歩いていく。なおも立ち尽くす芥川に、目だけで振り返り、言った。
「足立一之を撃った犯人探しをしようとしているなら、もう止し。とんだ薮蛇にかかるやも知れぬぞ」
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「それならば、及びませぬ」
芥川は、ミミックの敗残兵から奪い取った黒髪を懐から取り出す。目を丸くした紅葉に、表情も変えずに言った。
「すでに一人は刈取った。二人も三人も、同じこと」
「……まさか。ずっと前から犯人探しを続けていたのか?」
「当然」
強烈な犯行予告に、諜報にどよめきが走る。しかし返事も待たずに、芥川は歩いた。
懐を振動する携帯には、『中原中也』と登録された番号からの着信が入った。
「芥川です」
静かに返答した先で、中也は動揺を押し殺す声で芥川の名を復唱する。
『芥川か。今どこに、いや、よく聞け。本部が今』
「Qの地下牢の件、ですね。破壊された上、Qはどこにも見当たらないと聞きました。諜報の稲生もやられている」
『ああ、その通――ァア?!手前、そんなのどこで、』
それだけ伝え、芥川は通話を切る。
「任務ゆえ。失礼」
と紅葉に粗末な挨拶をすると、そのまま変わらない足取りで本部へと向かう。
ふわり、となびく外套とともに、前を見据えて歩いていった。
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「………なぜ、そこまで、」
「姐さん? どうなさいましたか」
「いや。何事もない」
尾崎紅葉は、芥川の後姿を呆然と眺めていた。
深く息を吸い、吐き出す。やがて、戸惑いを打ち消すように、首を左右に振った。
「一体、何のつもりで」
唇をかみ締め、天井を見上げる姿を見たものは、せわしなく動き回る黒服のなかには、誰一人としていない。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時