おしからざりし命さえ《四》 ページ14
「これが、呪い」
芥川は喉の振るえを押さえ込み、言った。
「しかしなぜ、今になって呪いが。Qは太宰さんの手で地下牢へ封印されたはずでは」
「その牢なら、見事に、もぬけの殻じゃ」
「何?」
「Qは何者かに連れ去られた。そして、その場に居合わせた証人は、稲生ただ一人。そいつもこの有様じゃ。話を聞くことができる状況などではないわ」
紅葉の感情のない声に促され、芥川は稲生を見た。
目が合った稲生は、何かを訴えるように、一層叫び声に近い声を上げる。
しかし、それに反応して医者や看護師が飛び出しては来ない。不自然な静寂にあたりを見渡すと、暗闇からぞろぞろと湧き出るように黒服が現れた。
「尾崎幹部。仰せの通り、スタッフおよび患者の避難は完了いたしました。今ここを出た者が最後です」
彼らは諜報部隊だ。尾崎紅葉が部隊長として直轄する、ポートマフィアの
組織でも情報統制のため、ここまで一つの場所に集まるということは滅多にない。芥川は信じられない思いで、一同が会するさまを見た。
「よく聞け。首領は、足立一之を守れと仰せじゃ」
紅葉を中心に、黒服は秩序よく取り囲んだ。
「そして、―――この病院に居るものを、Qの呪いより守れと。これは医者としての言葉。公私ともに、鴎外殿からはそのように申し遣っておる」
「応!!」
「各々向かえ」
彼女の号令とともに、黒い影が散った。具体的な指示はなく、古い暗号のような言葉一つで、それぞれが向かうべき場所へ去って行く。
「稲生を縛って、牢にかくまうのじゃ。……Qの呪いが解ける目処が立つまで」
床をのた打ち回っていた稲生は、無表情の黒服が両方から抱え込み、引き摺るように運んでいった。その間も悲痛なまでの叫びを上げるが、彼らはびくともしない。
「―――芥川」
それた意識を戻すように、紅葉は声を張った。
「お前様は早く本部へ戻れ。精神汚染がいつ起こるやもしれぬ場所に居てはならぬ」
「…足手まといと?」芥川は静かに呻いた。
「先ほどまで、無秩序に傭兵を虐殺して回っていたのを忘れたか? こたびの任務は任せられぬわ」
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時