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羅生門の戸は閉じる ページ32

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「おい芥川、何読んでる..…っと、邪魔したな」

コーヒーを片手に芥川の元へ歩いた中也は、彼が目で追っている文字を認めた瞬間顔を顰めた。

「確かくずし字…とか言ったかぁ?よくもまぁ読めるもんだ。俺なら読む気もおこらねぇ」

「僕は無学だ。教えを乞うた人にはよほど及ばぬ」

「また太宰の話か?」

「いえ。文字の読み書きの師は、また別に」

中也は少し意外そうな顔で芥川を見た。
無表情の中に、ほんの少しだけ感情らしきものが揺らいだのが見えた気がしたからだ。
太宰以外のことで心が揺れるのは、芥川にとって珍しいことだった。

「読書中に悪いが、きりの良いところで栞はさんどけよ。仕事だ。遊撃隊長」

仕事、の一言に目の光を鋭くさせる。
古い装丁の本を机に置き、臨戦態勢で中也に向き直った。

「概要は」

「相変わらずやる気なのは良いことだが、今回は気ぃ引き締めて行けよ。ただでさえ遊撃隊は泣けるほど人員不足なんだ。貴重なオフェンス枠だってことを忘れんなよ。――――なんせ今回の敵は、飛竜だからな」






「――――飛竜?」


「あぁ。なんでも諜報方の話によれば、貧民街のごく一部で、夜中になるとドラゴンらしきものが度々目撃され……って、おい、どこ行く!芥川!」


芥川は一瞬だけ立ち止まる。それから、前を見たまま言った。


「中原幹部。―――遊撃隊は、泣けるほどの人員不足だと仰いましたが」

「お…おう、」

「………龍に身を変える女というのは、新人に相応しいとは思わぬか」







芥川は返事を待たずに走った。

その足取りは好敵手と出会った姿でもあり、

長いことあっていなかった友人と再会したかのような、楽しげな姿にも見えた。


彼は、約束通りに首を討ち落としたのか。

かつまた、もう一度読書の友として美しい硝子瓶に閉じ込めることにしたのか。




下人の行方は誰も知らない。





【おしまい】

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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時

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