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わが身には、白蛇の化け物が憑いておりました。
母から続く因果の血だと人は言いますが、私は特に、その血が濃かったのだといいます。

日暮れと共に肌を鱗が埋め尽くし、日が昇るまで白蛇としてあらゆるものを食らい尽くす。
麻を焚き、私の見たものすべてを幻惑だの夢だののせいにしようと、父は躍起になっておりましたが、この身に起きたことを忘れたことはありません。

貪欲な蛇の体が何を求め、どのように這い回ったかは、すべて日常の記憶として残っていたのですから。


それから程なくして、蛙を食らう私を、父はケダモノと呼びました。

私の言葉を畜生の吠え喚きだと蔑み罵りました。

月日を経て凶暴さを増す白蛇が、次に使用人の下女を喰らうようになってからは、蔑みや罵りの中に恐れが滲み出すようになりました。

誰の目にもつかぬ鐘の中へ閉じ込めて、外から火を放って私を殺そうとしたこともありました。

それでも、私の体には傷一つつきません。

人の体であるうちに殺そうとしても、目が覚めれば目の前には武者の亡骸が転がるばかりで。…白蛇が、私の体を取って代わる時間が、徐々に長くなっていくのを恐れずにはいられませんでした。

ただ、生まれてしまったことへの恨みと。
死への渇望だけが、私の中を満たしておりました。

そんな時に、やっと殺してくれそうな、法力を持った僧侶が現れたのでございます。


熊野の寺より参ったという、その僧侶は、蛇に姿を変えた私が食い殺そうとしても、傷一つ付けられぬのです。
奇なる法力の力が私を弾いて、一歩たりとも男に近づくことができなくなる。

そうして動けなくなった私の元へにこやかに歩み寄り、夢のようなことを言いました。


…思わず、何度も、聞き返してしまいました。


『お殺せ、なさいますの』

『ええ。貴方の中の蛇はきっと、この私めが退治致します』


ああ、やっと、死ぬことができる。

やっと、殺してくださる。

そればかりが嬉しくて、私は蛇の姿のまま泣き声をあげました。


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.→←蜘蛛の糸、二十六本目



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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時

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