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蜘蛛の糸、二十四本目 ページ26

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「…できることは、いつ時間切れになっても良いように心構えておくことだけです。
このことは、私が人であった頃から変わらないことですから、きっと、真理なのですよ」

龍之介が驚いた顔で私を見ました。
人であった頃のことを、私が話すのはこれで初めてですから当然の反応でした。

同時に、ますます避けられぬ別れが側に迫っていることを感じ取ったのでしょう。
龍之介は無言で。私が入った硝子瓶を腕に閉じ込めました。

何も感情が感じられないはずの瞳の奥で、わずかに光が揺らいだように見えました。

「龍之介。来世、というものがあるなら、前世もあって良いと思いませんか」

「…昔のことはなにも覚えていないのではなかったか」

「何も想像しなかったのですか?…私は蜘蛛になる前、とんでもない悪党だったのかも、って」

「何故だ」

嗚呼、貴方は。あれだけの人を殺すのに。
そんなに純粋な目で人を見てしまうのですね。
嬉しいような、哀しいような。
きっと、貴方を除いて、他に理解者を得ることができないだろうと思ってしまいそうになる。

「…何故って、蜘蛛なんですもの。生まれ変わったら蜘蛛になるんです。よっぽどのことをしたのよ」

何から何まですっかり覚えています。
転生を何度繰り返しても、千年もの時が経っても忘れられない私の生きた記憶は、なにがあっても、わすれることはないでしょう。

「何をした」

「おおよそ自身を人間と呼んで良いものか、悩んでしまうほどのことを」

人であるなら、できないことを。

「だから私は人から姿を変えました」

「―――――。」

「火を吹き、大河を渡る、長い長い化け物に転身致しました。そうして、私の口から恨み言の代わりに業火を吐き出し吐き出し、寺の鐘の中へと隠れた大嘘付きを…………、」

「とんだバンカラ姫君だ。灰被り姫(シンデレラ)とは大違いだな」

「あの子と一緒になさらないで。ガラスの靴を履いて踊る、だなんて。私は蜘蛛ですもの」

「蜘蛛では踊る脚がないか」

微かに笑った気配がします。
瓶を抱える力が、少しだけ増したような気がしました。

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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時

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