届かない手紙(一) ページ46
『届かない手紙、届けます』
そんなキャッチコピーで郵便局を始めようとしたときに挙がった最初の問題は、単純なものだった。
死者へ宛てられた手紙は、どうすればよいのか。
その解を彼に与えたのは、同僚――ヴァイス・スフォルツだった。
「燃やそう」
火葬、という文化がある。発想としては当たり前のものだった。
燃やそう。
そう彼が言った時の横顔の輪郭はぼんやりとしか覚えていない。けれどその記憶は、決して脳裏から消えることはなかった。
＊
自分の口から言葉にしたもののほうが正しい。
歯磨きをしながら、ロスティスラーフは文美とのやり取りを思い出した。
だから史の言うことなど気にしなくてよい、と文美は言ったのだった。だとしたら、とロスティスラーフは考える。史にああ言われた瞬間、確かに彼はこう思ったのだ。自分は「おっちゃん」については誰よりも知っている自信があっても、「ヴァイス・スフォルツ」という人間については何も知らない。……「ヴァイス・スフォルツ」は「おっちゃん」になることを望んでいたのだろうか。望んでいたとしても、その時失ってしまった何かはなかったのか。ううん、もう既に失ってはいる。
『ごめん』
何度も言われたことがある言葉だ。けれど、記憶に残っているのはただ一つの光景。憧れの人ができて、連合に入って、真っ先に命令されたことがある。
それは、「おっちゃん」から仕事について聞くことだった。正確には「ヴァイス・スフォルツ」に聞くことだったんだろう。その時にはもう既に、仕事は引退していたんだけれど。
『本当にごめん。……何も、思い出せないんだ』
初めての仕事だ、と意気込んでいろんな方法で聞いた。昔からおっちゃんの制服姿をかっこいいと思ってたーとか、おれもなってみたいとか。何度か、思ってもないことでまかせも言った。「おっちゃん」はそれに気づいていたんだろうか。
でもやっぱり答えは同じ。「分からない」だった。ひどく苦しげで、それはきっと、真面目におれに向き合ってくれたからこその表情で。
ひどく、とんでもない、取り返しのつかない何かをしてしまったんだと分かった。
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