露悪主義者 ページ44
「顔色が悪いわね、局長さん。いつもの笑顔はどうしたの？」
「そんなことないよ！ 元気元気！」
帰って来たロスティスラーフを迎えたのは文美だった。いつもはぴんと伸びている彼の背筋は今は曲がっており、いつも多く光を取り込んで輝いている目も、伏し目がちになっているせいで生気がない。彼女に声をかけられた瞬間は、いつものように笑顔を作って答えて見せた。しかし、文美の表情が一向に変わらないのに気づいて、また先ほどのように萎れた。
「……やっぱわかる？」
「貴方とあまり話したことがない人でもきっと分かるでしょうね」
置いてもらってる身だから話くらいなら付き合いましょう、と彼女はいつもの席に座る。代筆を受け付ける、彼女の専用カウンターだ。いつもだったら彼女と同じ側に立つ彼も、今日は客のように彼女の反対側へ座った。
「文美姉は、おっちゃん……ヴァイス・スフォルツについてどう思う？」
言葉を選ぶようにしてロスティスラーフは言った。同僚、もといヴァイスは先に奥に引っ込んでいるようだった。閉店時刻が近づいてきている。
「漠然とした質問ね。妾は意図までは汲んで答えないわよ。額面上の問いに答える形で答えるなら――普通で、平凡で、ありふれた人ね。この局に来る人は、多かれ少なかれ彼と似た部分を持っているんじゃないの」
「似てる？」
そんなことは一度も考えたことがなかった。お客さんの中に、素敵な人やいい人はたくさんいた。――でも、それはヴァイスの、彼の「おっちゃん」の素敵さとは別だ。良さとも別だ。かっこよさとも別だ。心底不思議そうに言った彼に、文美は返す。
「ま、単純に妾はスフォルツさんについてはそう知らないもの。人間の認知は、知らなければ知らないものほどラベリングによって理解するようになっている。妾があの人に『普通』というラベルを貼っているから、その共通点が見いだされやすくなってるんでしょうね」
「らべりんぐ」
「名前を付ける、ということよ。貴方は妾と違って、スフォルツさんの一つ一つに個性を見いだして、名前をつけているから共通点が見えづらくなってるんじゃないかしら？」
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