＊ ページ39
「いや、一つ足りないよ。もしかして昇華隊では教えてないの？ 都合がいいことで」
「はい？ ……あ、いや。ああ、まあ確かに、叡智の門という観点を入れれば、そうですが……すみません」
いいよ、と史はロスティスラーフへ向き直った。ロスティスラーフは、二人の会話にまだぴんと来ていないようだった。
「叡智の書庫に収容される本は、原則『有史以来書かれた文字、全て』だ。しかし例外もある。例えば、消滅したもの。例えば、政府に秘匿されて出版されたもの。そして、収容活動が最も過激だった時期は、かなり杜撰な作業が行われていたことも判明している。例えば、都合の悪いものはなかったことにしてしまう、とか」
朝陽の脳裏を、政府がひっくり返されるきっかけとなった焚書の証拠がよぎる。同時に、その証拠を自分たちに託した、敬愛していた人間の顔も。
「だからこそ焚書には敏感なんだよ、図書館協会も政府もね。……で、だ。その目の敵となったのが、裏図書館協会が中心となった出版所の本で、ここで出された本はほとんどが燃やされた。にもかかわらず」
心でも読まれているような気がして朝陽は気分が悪くなった。一刻も早く帰りたい。
「彼女の全集は収容された。半分以上が、例の出版社で出されたにも関わらず、だ。どころか、多くの教育場の図書館にも置かれているらしいね。――ルスワール全集並び、その出版所最後の本となった『目録』――その出版社から出され、ことごとく燃やされた本の署名のリストがついている巻も、ね。それは長年焚書への戒めとして叡智の書庫に置かれてたと思ってたんだけど……」
「……史兄、さっきからちょっと嫌味じゃないか」
堪えかねたようにロスティスラーフは口をはさんだ。史の話より、朝陽の顔がだんだん曇っていくのが気になったのだ。「これは失敬！」と悪びれもせず史は言う。
「で、だ。そんなベルナデッタ・ルスワールの書簡と思しきものが今回発見された。筆跡的には彼女のものとみてほぼ間違いない。……この文字、誰が何のために書いたものだと、君達は見るかな？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
