恋文(ニ) ページ31
「おや、ローシャ君。久しぶりだね」
「久しぶり、史兄！ 元気そうで良かった」
綾部史の私室は、印象に似合わずシンプル、というより殺風景だった。もちろん、隣の部屋には埋もれそうなくらい本が積みあがっている。が、そのような部屋に常駐するのは人より虚弱な史には危険である、という判断らしい。
「こちら、小百合姉からのお手紙です。どうぞ」
「小百合さんから？！ うーん……いや、後で読むよ。ゆっくり読みたい。ありがとう」
そう独り言のようにつぶやきながら、史はロスティスラーフから差し出された手紙を着物の懐へしまった。ところで、と付け足しながら彼は立ち上がる。
「この後時間はある？ 手伝ってほしいことがあるのだけど」
もちろん、とロスティスラーフは答えた。人の役に立つのは大好きだ。
＊
史に連れられてきたのは、棚が多くある部屋だった。入り口のドアが開くところに長机が並んだスペースがあるだけで、それ以外は通路を覗いて整然と棚が並んでいる。
「……あの、私はなぜ」
「多くの人の意見を聞きたいからだよ。リブレリーア、元連合隊員、元昇華隊員。これだけそろえば『フェア』だしね」
おずおずと口を開いたのは、ここに来る途中で「君もついてきてよ」と史に押し切られるようについてきた女だった。
「ロスティスラーフ・ルスラーノヴィチ・アルマゾフって言います！ よろしくお願いします！」
「あっ……八嶋、朝陽です。よろしくお願いします」
元気に自己紹介したロスティスラーフに対して、朝陽は少しびっくりしたようだった。こういう仕事やってます、と差し出されたチラシを、はあ、と困惑しつつも受け取った。そして、自分も名のるべきと思ったのか。
「図書館等で教員をやっています……まだ全然なんですけど」
「先生？！ すごいですね！」
きらきらした目を向けるロスティスラーフに朝陽は、嫌な気分はしなかったが面食らった。そこから逃れるように史へ視線を向ける。
「先ほど『フェア』とおっしゃいましたがどういう意味ですか？ そして、私たちが連れてこられた意味は？」
「意味？ もちろんあるとも」
そう言いながら、史は棚から木箱を一つ取り出した。
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