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その後、乙宮花火は落ち着いた様子でロスティスラーフへ別れを告げ、人ごみの中に消えた。彼女の様子に不安感を覚えたが、どうしても彼にはその原因を追究することはできなかった。どうしても、彼女が拒んでいるように見えたのだ。
翌日、ロスティスラーフが目覚めると外はひどい嵐だった。この分だと、帰りの船も出ないに違いない。ホテルの予約も幸い取れたので、ロスティスラーフはそのままゆっくりと過ごした。嵐は、二晩続いた。
そして、明くる日。嵐が通り過ぎた後の街は、かえって洗われたように清々しかった。重さも、火薬の匂いもない、さっぱりとした空気が街路を走っていた。
船が出るまでの時間、もう一度彼女に会えやしないかとロスティスラーフは街を歩いた。まったく会えなかった。残念なはずなのに、なんだか予想通りな気もした。
代わりに、街のあちこちに、先日は気配すらなかった彼岸花があちこちに咲いていた。そうして突然に、すっくと咲く姿が、つい先日空に咲いていた花火のようにも見えた。
ロスティスラーフは、彼女の手紙を届けられなかった。託してもらうことすら、できなかった。――彼女は、自分で届けられたのだろうか。最後に見た横顔を思い出そうとしたが、どうにもうまく行かなかった。
そんなことも全て過去にするように、彼岸花は立っていた。
夏が、終わる。
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