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「寝坊したのか、ローシャ？ でも静かに歩かないとだめだぞ、天井にドンドン響いていた」
まだ新しい木の匂いがするこの部屋には、丸机が一つ、応接セットが一つ、カウンターが一つ置いてある。彼に声をかけたのは、カウンターの中に座る老人だった。彼の同居人であり、この場では「同僚」だ。
「さ、早く準備しよう。みんな待ちくたびれてるかも」
同僚のその言葉に、うん、とロスティスラーフは明るく返事をした。外へつながる扉を開くと、ベルがカランコロンと子気味のいい音でなった。
彼の朝一番の仕事は、この場所のトレードマークをぴかぴかに磨き上げること。金属の冷たさがある、真っ赤に塗られた、飲み込むための真っ黒い口がある――ポストである。実は、大戦争前に造られた年代物だとか。……彼に贈った人がそう言っていただけのため、真偽のほどは不明だが。けれど、それを差し引いてもこのポストがロスティスラーフは好きだった。鞄から鍵を取り出し、まずはポストの中を見る。手紙は一通も入っていない。じゃあ次、と今度は白布を取り出し、雨除けの屋根の下から足元まで丁寧に拭った。毎日やっているから、雨でも降らない限り布にもほとんど汚れが映らない。
さて、こちらが終わったら。ロスティスラーフはもう一度扉の前に立つ。壁面をペンキで全て白く塗ったこの建物、扉も例外なく真っ白だ。だからこそ、赤いポストと群青の制服がよく映える。扉の前にかかっているのは「CLOSE」を示す木製の札。
大戦争を経て、人々は文字を手放した。前の抗争を経て、人々は「文字を読める喜び」を再び得た。もしくは、押し付けられた。ロスティスラーフ・ルスラーノヴィチ・アルマゾフ。元言ノ葉連合隊員、前の抗争に参加した一人の少年――否、もう「青年」と呼ぶ方が適切か。
そんな彼が始めたのは、郵便局。それもただの郵便局ではなく、「届かない手紙を届ける」郵便局。
ロスティスラーフは、札をくるり、とひっくり返して「OPEN」にした。
そんな郵便局が本日も、営業開始。
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