第卌話_指名 ページ43
いつものようにお酌をして慌ただしくしていると、唐突に女将さんに呼ばれた。何が何だかわからず慌てて向かうと、指名が入ったのだという。お酌の私を指名する人がいるとは思っていなかったので驚きである。
……物好きな方なのだろうか?未熟な子が好みとか……?
それはそれで心境としては複雑だが。
女将さん曰く、常連になってほしいくらいの上客だとかで「絶対に、失礼のないように」とのことだった。
うぅ……緊張する。血の気が抜けたかのように体が重い。
芸者としての接客などほとんどしたことがないのに……。
先輩芸者のお姐さんに案内されたのは個室の襖の前だった。今までの話から宴会に呼ばれたわけではないのはわかっていたが、実際目の前にすると、どうして良いものかと眉間にしわを寄せてしまう。
「あんたなんて顔してんだい……」
『緊張、してしまって……』
「ヤダねぇ!この子は!指名してきたってことはあんたのお酌が心地良かったってことなんだよ。いつものあんたのことを気に入ってくれてるんだから、いつも通りに接客するだけさ」
『いつもの……』
いつもの私は、笑顔だ。お姐さん方のように手際よくテンポよく会話はできない。配慮も気遣いもまだまだ足りない。だからこそ、雰囲気の中に溶け込めるように笑顔でいようと努めていた。深く息を吸い込み笑顔を作る。
「そうそう。その笑顔があんたの武器だろう?じゃあ、声かけるからね、頑張りな」
お姐さんの言葉にこくりと頷いて、座って背筋を伸ばす。お姐さんは「失礼致します」と少し声を張り上げてから両手で襖を引いた。
私は手をついて頭をしっかりと下げる。
「大変お待たせ致しました。こちら、お酌のAでございます」
『Aです。失礼致します』
私は腕で体を引いて部屋の中へと移る。それからもう一度、深くお辞儀をする。
それを見たお姐さんは、
「では、ごゆるりと。失礼致します」
そう声を掛けて襖を閉めた。
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小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます!私も芽衣ちゃん好きです!こちらこそ、これからも宜しくお願いします! (2019年6月30日 20時) (レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです!めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです!これからも更新を楽しみに待ってます! (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年6月15日 0時