第廿捌話＿延長 ページ31
宴会の時間になったので、散策を切り上げて常盤へ向かう。
今日の宴会は小規模なものではあったが、お姐さんたちの話ではそれなりの重役の方がいらっしゃるらしい。
失敗のないよう、失礼のないよう気をつけながら応じる。
どの方も穏やかな方だったので、萎縮することなく接待することができたと思う。
宴会は滞りなく進んで終わりを迎えたようで、歳上の方から順に退席していく。
そして、見送りをしていた若いスーツの男性が最後に残った。淡い寒色の髪を持つその男性は、見送りを終えると再び席に着く。……立つ様子はない。
それどころか、顎に手を当てて一人で何かを思案している様子だった。
取り敢えず、自らの仕事を進めようと静かに部屋へと踏み込む。
『旦那様、如何なさいましたか？』
「……すみませんが、もう一本分伸ばしていただいてもよろしいですか？」
『え、と？お時間をでしょうか？』
「はい」
『確認致しますね』
突然の延長の申し出だった。お酌の自分では判断できなかったので、お姐さんに確認すると大丈夫とのことだったのでその旨をお伝えする。
すると彼は「ありがとうございます」と一言礼を言い、ぼんやり月を眺めながら手元のお酒を口に含んだ。それなりの時間宴会に参加していたはずなのに、頬が赤くなったり酔っ払う様子はない。相当お酒に強い、もしくはざるなのかもしれないなぁ……なんて思いながらお酌をする。
何故私がお酌をしているかと言うと、彼が芸者を退席するように申し出たからだ。かと言って話術のないお酌の私には話すことなどできず、沈黙がかれこれ数分続いている。
この人は退屈ではないのだろうか。
時間はゆっくり、ゆっくりと流れていく。
相手が1人なのでこちらも忙しなく動き回る必要がないので、体感時間の長いこと長いこと……。
ぼんやり彼と同じように月を眺め、時折お酌をする。
「……退屈そうですね？」
手持ち無沙汰にしている事に気付いたのか、こちらを見て男性はにこりと微笑んだ。
なんというか、綺麗な営業スマイルである。
「……」
『……お疲れですか？』
「……そんなところです。今日は私が接待していたので」
彼はこちらを向きヘラリと笑う。
先程の営業スマイルとは違う少し困ったような笑み。
この人にとっての今は束の間の休息、というところだろうか。
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小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます！私も芽衣ちゃん好きです！こちらこそ、これからも宜しくお願いします！ (2019年6月30日 20時) (
レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです！めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです！これからも更新を楽しみに待ってます！ (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小崎相良 | 作成日時：2019年6月15日 0時
