第廿壱話＿絵 ページ24
「え…………まぁ、邪魔しないでくれるならいいよ」
目線を逸らしつつ、彼は承諾してくれた。
私は座っていた席を立ち、近寄る。
その紙には色々な動物や植物が描かれており、それらは絵から飛び出てきそうなほどリアルだ。
『模写ですか？』
「……そうだよ」
『…………とても繊細で丁寧ですね。これは睡蓮でしょうか』
「……そう」
彼は描かれている絵を順番に指差す。
「睡蓮、こっちが紫陽花、朝顔、この鳥は百舌で、これは雀」
どの絵も模様や筋、毛の流れがわかるくらいに細かく描かれている。絵を見ていてふと、髪の隅に書かれた文字が目についた。
くにゃくにゃっと書かれているので読み辛い。明治の字体なのかもしれないけれど。形からなんとなく推測する。1文字目は多分春。春…と、これはなんだ？その疑問は意図せず口に出てしまっていたようで。
『これは、春……？』
「春草」
『しゅん、そう……？』
「……俺の名前だよ。菱田春草。名乗ったはずだけど」
『……すみません』
「……君、忘れっぽいんだね」
そう言って彼は、菱田さんはクスリと笑った。
忘れていたのは事実なので返す言葉がない。
仕方ないだろう……あの日はイレギュラーなことがありすぎて、終始プチパニックだったのだから。鴎外さんの名前を覚えているのだって、もともと知っていたからだ。
『もう覚えたので大丈夫だと思います……』
「ふーん……」
『菱田さんは画家なのですか？』
「いや、俺はまだ美術学生だから」
『美術学生……』
「……興味あるの？」
そう言って菱田さんが首を傾げた。
その目は問いかけるようにこちらを見つめている。
もともと漫画やアニメは好きだったので絵に関心はある。色彩の綺麗な絵は、見ていて引き込まれるからだ。
菱田さんは見た感じ同年代か、少し年下くらいだろう。その若さでこの画力を持っているのがすごいと思うし、尊敬に値する。
『……興味があると言いますか……好きな絵風だなぁと』
「！」
『菱田さんの絵は見ていて心が温まるような……優しい世界観が素敵だな、と』
「……そう」
菱田さんはそう言ってふいっと俯く。
その動作で菱田さんが照れているような気がして、私は小さく口角を上げた。
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小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます！私も芽衣ちゃん好きです！こちらこそ、これからも宜しくお願いします！ (2019年6月30日 20時) (
レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです！めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです！これからも更新を楽しみに待ってます！ (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小崎相良 | 作成日時：2019年6月15日 0時
