第90話 ページ43
桜乃side
「早く帰った方がいい」
分厚い本を片手に、そう言って来たのは焦った表情を浮かべるリョーマくんだった。
急なことで驚いて瞬きをする私を他所に、リョーマくんは少し乱暴に教科書とノートを閉じて私の鞄へと詰める。
ペンケースも片付けられて、蛍光ペンを握ったままの私の腕と鞄を掴んで図書室の外へと連れ出された。
「リョーマくん!?」
リョーマくんに連れ出され、駆け降りた階段の先にある人気のない踊り場で、腕を離され鞄を押し付けられた。
どうしたの、その言葉を私が発する前に、リョーマくんが私を見て口を開いたの。
「竜崎。……その、マネージャーとなんかあった?」
「え?」
リョーマくんの言葉に、私は「何か、って?」と聞き返す。
聞き返された彼は、眉を顰めながら口を開く。
「……竜崎のこと、苦手みたいだから」
詳しくは、聞いていない。
そう前置きをおいたリョーマくんは、私に教えてくれた。
「今日、マネージャーから竜崎と仲が良いか聞かれた。……クラスメイトとは答えた、けど」
言葉を選ぶように、私から視線を逸らしてそう言ったリョーマくん。
苦手、そう言われてしまうほど、私は虎谷先輩とは関わっていないはずなのに。
「……そっか。でも、どうして早く帰った方がいいって、私に言ったの?」
私の質問に、私の方へと目を向けたリョーマくんは、また視線を逸らす。
それはまるで、私に対してなんて言っていいのか悩んでいるかのようだった。
「っ……気をつけて帰んなよ」
それだけ言って、リョーマくんは私に背を向けて階段を登って行く。
私はそんなリョーマくんの後ろ姿を、蛍光ペンを握り締めたまま、鞄を抱き抱えたまま見つめていた。
リョーマside
『……苦手なの、あの子のこと』
戻って来た図書室の前で思い出すのは、マネージャーが言っていたこと。
『多分、周助が竜崎さんに言ったんだと思うの』
続けてそう言ったマネージャーは、不二先輩が竜崎にテニス部に近づくなって言ったんじゃないかと、教えてくれた。
それを聞いてオレは不二先輩の行動に驚いて……。
そして考える間もなく、そのタイミングで図書室に来た不二先輩を見て思わず、オレは戻す本を持ったまま竜崎を図書室から連れ出していた。
不二先輩に会って、竜崎が何か言われたら。
竜崎が、それで泣いてしまったら。
「……好きじゃん、かなり」
手にしたままの分厚い本が、ミシリと音をたてた気がした。
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バンビ(プロフ) - 真理さん» 現在更新のペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、時間を見つけて更新をしていきますので、今後ともよろしくお願い致します。 (1月25日 23時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
真理 - バンビさん» 続きまだですか? (1月24日 7時) (レス) id: e1f8464f5a (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - リコさん» ありがとうございます。今後も楽しみにして頂ける様に更新していきます。 (2021年7月18日 11時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
リコ(プロフ) - 続きを楽しみにしてます! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 8b5e530447 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - 紗衣さん» ありがとうございます。非常にゆっくりな更新になっていますが、楽しみにして頂ける様に頑張ります。 (2021年4月10日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バンビ | 作成日時:2020年9月4日 12時