第89話 ページ42
不二side
「今日は越前が当番なんだね」
「不二、先輩?」
猫のような目を丸くして、僕を呼んだ越前。
図書室のカウンター越しに暇そうにしていた越前は、僕を見て驚いたかのような表情を浮かべていた。
「珍しい、っスね」
「梅子と一緒に課題をやる予定なんだ」
彼女の名前を出せば、越前は「マネージャーだったらあそこっス」と、窓際にの一角を指で差した。
窓際の席の方へと視線を向ければ、ふわふわの髪を耳にかけて、何やら真剣な表情で何かを読んでいる横顔。
夕日が差し込んでいるのもあって、彼女の髪がオレンジに輝いて見えた。
「じゃ、オレ仕事があるんで」
見惚れていた僕の横で、本を一冊持った越前は、カウンターを出て彼女がいる方向とは反対へと歩いて行く。
若干早歩きのようにも思えたが、あの越前も真面目に仕事をしているのだろう。僕は越前の方を見ることなく、待っているであろう彼女の元へと向かった。
越前が誰かと話しているような気もしたが、きっと真面目に仕事をしているだけだろう。
「梅子、お待たせ」
僕を見上げ、柔らかく微笑みながら「待ってないよ」と小さく返事をした彼女は手にしていた手紙を、僕から隠すようにしまう。
「どうしたの?」
「また、貰っちゃって……」
恥ずかしそうにしている彼女。
どうやら、またラブレターを貰ったらしい。
「梅子は人気者だから」
「そんなことないよ」
僕の一言に、はにかむ彼女。
そう、梅子は人気者だ。
可愛くて心優しい、勉強も出来て運動神経も良い。
才色兼備な高嶺の花。
手塚も大石も例外なく、男はみんな彼女のことが好き。
……勿論、僕もそこに含まれている。
「……返事は?」
「今は、マネージャー業に専念しなくちゃ。……断るよ」
「そっか。……梅子らしい」
そう口にすれば、彼女は「教えてほしいところがあるんだけど」とラブレターをしまって古典のプリントを取り出した。
僕の方へ身を寄せるようにして、上目遣いで聞いてくる姿に彼女の気持ちは僕にあるんじゃないかって勘違いしてしまいそうになる。
「ここは_______ 」
今こうして梅子に誘われて二人で課題をやって、他よりも一歩リードしたところにいる僕だけれど、彼女はみんなに平等。
だから、テニス部内では梅子を水面下で取り合っている。
越前は、そこに含まれていないけれど。
でも、僕は知っている。
『越前くんってすごいよね』
そう言って見つめていた彼女を、僕は知っている。
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バンビ(プロフ) - 真理さん» 現在更新のペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、時間を見つけて更新をしていきますので、今後ともよろしくお願い致します。 (1月25日 23時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
真理 - バンビさん» 続きまだですか? (1月24日 7時) (レス) id: e1f8464f5a (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - リコさん» ありがとうございます。今後も楽しみにして頂ける様に更新していきます。 (2021年7月18日 11時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
リコ(プロフ) - 続きを楽しみにしてます! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 8b5e530447 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - 紗衣さん» ありがとうございます。非常にゆっくりな更新になっていますが、楽しみにして頂ける様に頑張ります。 (2021年4月10日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バンビ | 作成日時:2020年9月4日 12時