第87話 ページ40
リョーマside
竜崎は変わった。
理由を見つけようとしても、まずもって竜崎がいつ変わったかなんて分からないし、分かりたくもない。
ポンタを買いに、偶然通りかかった女子テニス部のコートでは、レギュラージャージを着たメンバーで練習試合をしていた。
男子程ではないにしろ、レベルの高い試合が繰り広げられていて、その中でも一際、目を奪われるコートがある。長ったらしい三つ編みを揺らして、この間の試合よりも一方的な試合をしている竜崎がいるコートだ。
「……竜崎」
呟いた名前の先にいる彼女は、相手に睨まれても、涼しげな笑みを浮かべている。
挑発のちょの字も知らなそうな顔して、立派に挑発している姿は随分と楽しそうに見えた。
あの日から手にしているラケットはいつ買い換えたのだろうか。らしくない『白いラケット』は竜崎に似合わない。
いつどこで誰に教わったのだろうか。らしくない『完璧なフォーム』で打ち込まれるキレのスマッシュは、別人を思わせる。
これまた誰に教わったのだろうか。ここから観ても分かる『一方的な試合運び』は、闘争心が駆られて仕方がなかった。
ポンタを持つ手に力が入る。
メコッと、缶から音が鳴った時。
「あら、越前君」
不意に名前を呼ばれた。
振り返れば、女子テニス部のレギュラージャージを羽織った人が笑みを浮かべて立っている。
「……誰」
「女子テニス部部長の我妻よ。男子テニス部の方にも顔を出していたけれど?」
優しい声音。
けれど、我妻と名乗ったその人が優しさを感じさせないのは、貼り付けたような笑みを浮かべているからだろうか。
「何か用っスか?」
「竜崎さんを観てたの?」
全てを見透かされるような目が向けられる。
まるで自分の中を全て探られているようで、気分が悪い。
「彼女、変わったわよね」
「……っスね」
「越前君と同じで、他校でも有名よ」
「……へぇ」
帽子を目深に被り、目を見ないようにする。
だからなんだよ、そう心の中で悪態を吐きながら。
「彼女が好きなのね」
「ハァ!?」
思わず視線を上げた。
いや、あり得ない。
オレが竜崎のことが好きだって?
ない。絶対に、ない。
テニスが下手で、方向音痴で運動が苦手で。
一生懸命で、優しくて。……泣き虫で。
「……っ」
ベコンッと音を立てて潰れた缶。
顔に熱が集まる。ポンタが溢れた手は、冷たい。
「自覚なかったかしら」
その優しい声音は、やけに大きく聞こえた。
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バンビ(プロフ) - 真理さん» 現在更新のペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、時間を見つけて更新をしていきますので、今後ともよろしくお願い致します。 (1月25日 23時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
真理 - バンビさん» 続きまだですか? (1月24日 7時) (レス) id: e1f8464f5a (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - リコさん» ありがとうございます。今後も楽しみにして頂ける様に更新していきます。 (2021年7月18日 11時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
リコ(プロフ) - 続きを楽しみにしてます! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 8b5e530447 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - 紗衣さん» ありがとうございます。非常にゆっくりな更新になっていますが、楽しみにして頂ける様に頑張ります。 (2021年4月10日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バンビ | 作成日時:2020年9月4日 12時