「こんばんは」 ページ2
夜中一時。月明かりだけが部屋を照らし、人々は自宅でぐっすり眠っている頃。けたたましいサイレンの音で目を覚ました。
ふと出窓の方へ目を向けると、ぼんやりとした月明かりの中に黒い人影が見えた。影はマントのようなものをゆらゆらと揺らしている。ベッドから起き上がりカーテンを開けると、そこにはベランダの手すりに立つ純白の紳士が立っていた。
「……怪盗キッド?」
ぽつりと言葉を零す。窓は締め切っているので声は聞こえないようだったが、流石と言うべきか。視線に気づいたようでこちらを振り返った。
彼は口角を上げ微笑むと、その細い指を自身の唇に押し当てた。所謂「しーっ」というやつである。
私がこくりと頷くと彼は指を退け、手すりから降りると窓ガラスを2回ノックした。それに答えるように出窓を開ける。
「こんばんは、心優しいお嬢さん。」
「噂に聞いていた通りキザなんですね大怪盗さん。」
「ふふ、私のアイデンティティの様なものですから。」
優しくて落ち着く声色だった。見た目だけで判断してしまうけど、10代から20代くらいなんじゃないかな。彼は何者にでも化けるらしいから本当は違うのかもしれないけど。
「サイレンの音がすると思ったら貴方だったんですね。」
「あぁすみません。起こしてしまいましたか?中森警部がしつこく追っかけてくるものですから……」
「羽休めしてたんですか?ならいくらでも。
お話相手ができて嬉しいですし。」
そう答えると、彼は「ありがとうございます」と言って私の手の甲に口付けをした。顔に熱が集まる。吹き込んでくる夜風が冷ましてくれなければ、今頃彼に熱がバレていた。
こんな風に夜中に言葉を交わすのは初めてで、胸がじんわりと暖かくなった。相手は世間を騒がす犯罪者で、決して安心していい相手ではないのは承知している。しかしその優しい声と人畜無害そうな態度に安心しきってしまっていたらしい。優しく添えられていた手を軽く握ってしまった。
「お嬢さん?」
「あ、あぁ、ごめんなさい。」
急いで手を離す。と共に、ヘリコプターの羽音とサイレンが徐々に大きくなっていることに気がついた。
______警察が、探しに来た証拠だ。
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乃花おむ子(プロフ) - 白。さん» ありがとうございます!これからも気が向いた時にちまちま続編というか、後日談の「Secret Lover」更新していきますのでよろしくお願いします!レス返すの遅くなってしまいすみませんでした〜! (2020年2月19日 19時) (レス) id: 6c075283b8 (このIDを非表示/違反報告)
白。 - コナン知ってて、まじ快知ってて、あんスタまで知ってるとは…。作者さんとはお友達になれそうです!偶然見つけた作品なのですが、良いのに当たりました。他の作品も楽しみにしてますね。ささやかに応援します。 (2019年5月7日 20時) (レス) id: 0235a92526 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃花おむ子 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Omutarosan1/
作成日時:2019年4月13日 20時