〈完〉本能の領域

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怖かった。ユンギさんに何を言われるのか。どう思われてしまうのか。

αとΩの壁は何よりも厚い。よく分かっていたつもりだったのに。こうやって面と向かうと怖くなってしまった。
ユンギさんの言葉はどれも重かった。怖いかと震える彼の瞳が、受け入れきれないと逸らされる目が、お互いの開いてしまった隙間を感じさせた。






「.....ユンギさん、私、ユンギさんが好きです」
「っ...！」
「貴方を騙した私にこんな事言う権利は無いと思うけど、初めて会ったあの日から、ユンギさんは私の特別です...」






どうせ会えなくなるのなら、もう、伝えてしまおう。貴方が好きだと。日数にすれば彼との日々は少ないもので、会った回数は片手で数えられるだけ。それでも、私は貴方に惹かれた。

私の話を聞く時、ユンギさんはとても優しい表情になる。それが好きだった。心地良い低い声が、Aって呼んでくれる。それが好きだった。貴方の全てが、愛おしい。






ユンギさんの返事は聞きたくなかった。優しいユンギさんでも、私がずっとΩだった事を隠していたのは許されないことだと思う。だから、受け入れたと言ってくれても、私はきっと彼の言葉を信用は出来ないだろう。αとΩというのは、そういう事なのだ。

彼の手を逃れふらりと立ち上がる。驚いたように私を見上げたユンギさんが、A、と私の名前を呼ぶ。もうそれが聞けなくなると思えば、最後に名前を呼んでもらえたのは幸運だったかも。






さようならユンギさん、そうして私はユンギさんを残し公園を走って抜けた。

二度と会うことの無い最愛の人、ユンギさん。さようなら。






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